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寝床の科学

「寝床の科学」著者 白崎繁仁
発行:1997年11月3日 白崎研究所
北海道札幌市白石区平和通3丁目南1-4
白崎繊維工業内 TEL:(011)861-4146

●はじめに

人は毎日眠り、その都度寝具を使っている。

寝具の話しをすると「眠りのために寝具は大切だ」と、その時は皆よく分かってもらえるが、日ごろは服や着物や装飾品ほどには関心は深くないように見受けられる。

社会変化とともに睡眠環境は年ごとに悪くなっているし、睡眠時間も年ごとに減少している。

一方、「一日が25時間になったら、増えた1時間を何に使う?」という東京生命保険会社のアンケート調査(平成9年4月~6月)では睡眠時間と回答した人が一番多く、19.1%であったという。

健康管理の面からもよい睡眠環境作りが必要となっている。つまり、社会生活での限られた条件の中で、いかにして質・量ともによい睡眠が得られるかである。それらの中で最も身近な生活必需品である寝具について「休息と眠りのための寝具のあり方」を考えて見てはと思う。

残念ながらこれまで寝具に関しての一般の人の関心も薄く、研究者も少ないので分からないことも多いが、私がこれまで寝具の製造に携わってきた体験と、研究室での成果や他の研究者の報文などで知り得たことを列記してみた。これからのよりよい生活の一助として参考になれば幸甚である。


●睡 眠

1.時代と睡眠環境・・・

古代の人びとは他の多くの動物と同じように、日の出とともに起きて食料を求めて歩き回り、日没近くなるとねぐらに戻って眠る、という自然の明暗に合わせての生活の繰り返しであった。

人びとが火を使うことを覚えて、多少の明かりが使えるようになるとねぐらの中での動きもそれなりに多くなりヒル、ヨルの生活リズムにも少しずつ変化が現われ、睡眠のための眠る起きるについても影響し始めた。

長い年月の間に人びとの生活様式もどんどんと移り変わり、複雑なものとなった。

現代の都市化社会では人びとは必要に応じて二十四時間いつでも明かりが得られるようになり、職業も多種多様になって夜間の就働人口も増え、早朝勤務や交代勤務、職住の遠隔化、仕事の国際化、多忙などでますます睡眠時間が短縮されて、年ごとに質・量共に低下しているのが現在の睡眠環境である。短い時間内に如何に効果的に良質の睡眠をとるか、言うべくして難しい問題ではあるが、だれもが望み、願っていることである。

2.なぜ眠たくなるのか・・・

多くの人は夜になると眠り、朝には目覚めて一日の活動を始める。なぜ眠るのか、この最も身近な疑問にはいくつかの仮説があるが、決め手となるようなものはないようである。しかし食欲と同じように、生きてゆくためには必要な本能であることには間違いがない。

1、疲労回復説 疲れが蓄積されて眠くなる。つまり疲労回復に必要だからという説であり、昔からよくいわれている説である。しかし疲労感がなくても毎日同じような時刻になると眠くなるので疲労だけとは言い切れない。

2、刺激遮断説 刺激によって起きている感覚器の興奮を遮ることによって睡眠が起きるという説。室内を暗くしたり、静かにしたり、温覚・触覚・痛覚・皮膚感覚など遮ることで脳への刺激をなくすることで眠り易くなる。

3、条件反射説 緊張が続くと大脳が疲労して内制止がおき、神経細胞の活動が抑制されて眠くなる。

4、中枢説 脳の網様体から皮膚、筋肉、内臓感覚への信号が大脳から送り出されていて、網様体が活動をしたり、停止しており、この停止時期が睡眠となる。

5、睡眠物質説 断眠したイヌの血清を他のイヌに注射したところ、注射されたイヌに睡眠が起ったことから、長い間眠らないと脳や体液中に体内のある種の物質がたまって睡眠を起し、持続させるという説。これまで多くの物質がいわれているが、これらの物質が直接にどのように作用しているかについては詳しくはわからないことが多い。

6、その他 体内時計説、脳貧血説、化学物質説などがある。

研究も進み、いずれは研究者によって解明されることと思うが、分からないことが多く、正にねむりの世界である。

3.長時間睡眠と短時間睡眠・・・

成人の睡眠時間は多くは7~8時間であるが、各人の性格・生活・習慣などの相違から睡眠時間にも長短が生まれる。9~11時間の睡眠をとる場合を長時間睡眠、4~6時間の睡眠をとる場合を短時間睡眠と呼んでいる。長時間睡眠・短時間睡眠とも少数ながら健康な人にも見られる。

長時間睡眠は内向性で生真面目、反省心が強く、学者、芸術家肌の人に多い。長時間睡眠ではアインシュタインが有名である。彼はバイオリンを弾き、モツアルトのファンで芸術的センスに恵まれていた。

短時間睡眠は外向性で自信家、くよくよせず、悩みを持ち込まないタイプで、社長、猛烈社員に多い。短時間睡眠ではナポレオン、エジソン、チャーチル、ワシントン、J.F.ケネデイなどがあげられる。

また研究者の報告によると、仕事が順調でうまくいっている時には睡眠時間は短く、仕事が思うように進まず、落ち込んでいる時には睡眠時間は長い。職場が変わって不慣れな時は睡眠時間は長くなり、慣れるに従って睡眠時間は元に戻るようになるという。

4.睡眠の経過と状態・・・

夜になると眠くなって寝床に入り、翌朝に目覚めるが、この睡眠中に何がどのように変化したのか、またそれがどのような経過をたどっているかなど自分自身では知ることができない。

睡眠中の経過を脳波から見ると下表のようになる。

脳波から見た睡眠の状態は、ベーター波【目覚め】、アルファー波【うとうと眠り】  シーター波【すやすや眠り】、デルター波【ぐっすり眠り】の経過をたどっている。

5.レム睡眠とノンレム睡眠・・・

睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠とに大別される。

○レム睡眠・・・眠りながら眼球が急速に動くことから 「急速眼球運動」(Rapid Eye Movement)と呼ばれこの頭文字をとってREM(レム)と名付けられている。

特徴は

★80~110分ごとに繰り返し、朝方近くにつれて時間間隔は短くなる。同時に持続時間は長くなる。

★この間に夢を見ることが多い。

★全睡眠中に占める割合は成人で約15~25%ほどであるが、年齢、体質、睡眠時間などで差がある。

○ノンレム睡眠・・・レム睡眠以外の睡眠で、急速眼球運動がない。

レム(Rapid Eye Movement)とは、眠りながら眼球が急速に動く状態をさし、目覚めに近い状況で夢を見ていることが多い。

全睡眠の15~25%をあり、80~100分ごとに繰り返す。ノンレムは、レム睡眠以外の睡眠のこと。急速眼球運動がない。

6.加齢と睡眠の変化・・・

動物は新生児ほど長い時間を眠り、成長とともに眠りの時間は短くなる。人も場合も同様である。

1.単相性睡眠

(夜眠だけ)6~10才夜眠   10時間。

      成人  夜眠    7~8時間。

2.多相性睡眠(睡眠時間が昼夜一日に二度以上)

新生児    3~4時間毎に目覚めながら一日16~17時間以上の睡眠

3~6か月   昼眠4~5時間  夜眠10時間   計14~15時間

6か月~1才  昼眠6~7時間  夜眠6~7時間  計12~14時間

4才     昼眠3時間     夜眠8時間     計11時間

老人      昼眠1~2時間  夜眠6~7時間  計7~9時間

3.一日の全睡眠時間中のレム睡眠時間の割合

新生児    50%  生後3~5か月 40%   生後6~23か月 30%

3~5才     20%  19~30才    22%   33~45才    18.9%

50~70才   15%  70~85才    13.8%

4.一日の全睡眠時間中のノンレム睡眠時間の割合

新生児から生後23か月の間ではノンレム睡眠は増加するが、その後は少しずつ低下する。

五十才以降になると更に低下率は高くなる。

7.体内時計と社会時計・・・

人は一日を24時間としている。多くの人はこの時間内に一日の行動を割り振りして生活して、休日には朝寝をしたり、行楽のために早起きをしたりして、それぞれの生活設計をたてながら社会人としての快適な日常生活を送っている。そして一日を24時間としていることにも、何の不自由もないし、疑問も感じていない。

しかし人の生活からすべての社会的制約がなくなった場合、つまり極地や離島あるいは地下室などで生活をして、時計や社会人としてのすべての約束事を除くと、ちょっと様子が変わってくる。このような条件では人がもともと体内にもっているリズムである体内時計に従って寝起きをするようになる。一定の時間になると眠くなって眠り、自然に目が覚め、腹がへると食事をとる。これはまた大変快適なものであり、日常忙しく動き回っている現代人にとっては羨ましいとも思われるほどであるが、しかしこの場合は一日を25時間としてのリズムに従って生活をしているのである。人はもともと25時間で生活すべきところを社会人として生活の必要から24時間として生活行動をしている。つまり社会時計に従って生活をしているのである。この体内時計と呼ばれる25時間の中で眠くなる時が二度ある。昼食後に軽い眠気を覚えるのはこの現われである。人はもともと昼の軽い眠りと夜の深い眠りと二つの睡眠時間をもっているからであり、半日リズムといわれるのもこのことからである。

外国旅行などで時差があって眠られなくなったりするのも、体内時計が急な社会時計の変化についていけないことから起きる現象であり、赤ちゃんや老人が成人と異なる眠りのリズムを持つのも、この時代には社会的な制約が少ないので、体内リズムに従うことが多くなるからである。

8.よい寝つきとは・・・

毎日同じ時刻に寝床につき、翌朝はいつもと同じ時刻に目覚ざめても、眠りに充実感があって心身ともにそう快な時もあれば、眠り不足感で疲れが残ったようで、気分の優れない時もある。就寝した時間が同じであっても眠りの質と量の違いからこのような差がでてくる。よい眠りとは寝つきがよく、よく眠り、目覚めもよいことである。

寝つきとは就寝してからちょっとした刺激では目覚めなくなる安定した睡眠、つまり深度2(「よく眠るとは」の図参照)までの時間経過である。この時間が短いほど良く、長いほど悪くなる。よい寝つきの人は数分にしてすやすやと眠り、そのまま深い眠りに入り、レム睡眠ーノンレム睡眠ーレム睡眠と定型的な睡眠のサイクルに入る。同じ人でも就寝前の行動・体調・寝室や寝床の環境の変化などで、なかなか寝付かれないことがある。ふとんが変わると眠られない、枕が変わると寝付かれないなどよく聞くことである。

寝つきの悪い状態にはおよそ二つの型がある。

寝つきが悪くなかなか眠りに入り難い型と、眠りについてもうとうと眠りでちょっとした刺激ですぐ目覚め、またうとうと眠りに入るとの繰り返しで深い眠りに入り難いつまり睡眠深度一と二の間を往復している状態の型とがある。

始めよければ終りもよしというが、寝つきは一晩の睡眠の良否に影響する。心身をリラックスさせ副交感神経の働きをよくして寝つきをよくするよう心がけたいものである。

9.よく眠るとは・・・

よく眠っている状態を「熟睡している」「ぐっすり眠っている」「深く眠っている」と表現している。つまり睡眠深度が3~4の徐波睡眠に到達してこの状態が続く中で深度4がよく現われる状態の時である。一般に徐波睡眠はレム・ノンレム睡眠サイクルの最初の時間帯に全睡眠中の2分の1に相当する量が出現する。従ってよい眠りを得るためには、この最初のサイクル時の徐波睡眠の継続をよくすることが肝要である。

10.快い目ざめとは・・・

すっきりして爽やかに目覚めた時は、熟睡感もあり、心身ともにさわやかで気持ちがよい。その日は何かよいことばかりがありそうな気分にすらなる。

毎朝同じ時刻に目覚めても、いつもより多い睡眠時間をとっても、いつも目ざめが快いとは限らない。

快い目ざめは最適なタイミングで目覚めることである。つまり、レム・ノンレム睡眠サイクルのどの深度の時点で目覚めたかによって良否が決まるからである。

ノンレム睡眠の深い眠りの時に目覚める(外部からの刺激によることが多い)とまだ眠気が強く残っているので、なかなかすっきりとした気にはなれないし、目覚めは極度に悪い。レム睡眠中の目覚めはノンレム睡眠中の目覚めほど悪くはないが、まだ快いとはいえない。これはレム睡眠中の脳波が浅い睡眠状態にあるからといわれている。

最適な目覚めのタイミングはレム睡眠が徐々に浅くなり、レム睡眠が終って数分後のごく浅いノンレム睡眠の始まり時がよいといわれている。

睡眠サイクルも朝が近づくとノンレム睡眠は浅くなって、目覚めのよいタイミングを作り出している。

11.寝付きをよくするには・・・

いつも寝付きの悪い人がいるし、寝付きのよい人でも心配ごとがあったり、体が不調など、何らかの原因でなかなか寝付かれない時がある。

このような時には人はそれぞれに工夫をこらしていろいろな対策をたてている。

例えば、、、

軽い運動 軽く汗ばむ程度の運動で適度な肉体的疲労があると、ノンレム睡眠の量が増加するので、深く眠ることができる。ただし急激で過度な運動は眠りを妨げることがある。これは疲れ過ぎると筋肉内に乳酸が増えるからという。

微温入浴 38~40℃の風呂に20~30分ほど入浴する方法である。副交感神経の働きをよくして鎮静作用があり、血行をよくし筋肉の緊張をほぐすなど心身をリラックスさせる効果がある。

脚 浴 両脚または足首を40~42℃の湯に5~10分ほど入れて温めると血行がよくなり全身が温まり、微温入浴のように心身をリラックスさせる。微温入浴・脚浴とも鎮静作用のあるハーブ類を加えるといっそう効果的である。

ハーブの利用 古代からハーブの香気成分を鼻腔・皮膚を通じて吸収して、香りを楽しんだり病気の治療などに利用されてきた。今なお入浴・脚浴用に、また寝具や寝室内に利用されている。

催眠作用のあるもの・・・ラベンダー、カモミール、レモンなど

鎮静作用のあるもの・・・ベイソン、イランイラン、オレンジ、ラベンダー、カモミール、ビャクダン、デイル、ベルガモット、レモン、ローズマリーなど

飲み物 個人差があるが少量のアルコールを摂取すると、精神安定作用がある。就寝の30分ほど前に飲むと入眠促進効果があがるという。もちろん飲み過ぎては逆効果である。

お茶やコーヒー、紅茶などカフェインの多いものは脳の覚醒中枢を刺激するので入眠の妨げとなる。カフェインの刺激作用には個人差もあるが、飲用後2~3時間ほどでピークとなり、徐々に下がりながら5~6時間続く。

食べ物 脳内物質のセロトニンが不足すると短眠・不眠の原因を誘発する。セロトニンはトリプロファンから作られるのでトリプトファンが含まれている蛋白質の食物をとるとよい。脂肪をとるとコレチストキニンが腸内に分泌され、これは中枢神経を刺激して睡眠を誘う。この時は植物性脂肪がよい。血中カルシウムの不足は交感神経を刺激して精神の安定を欠き、ビタミンB1、C、Eのように神経をリラックスさせる食物をとることもよい。(別表参照)

栄 養 素 食 べ 物 成 分 と 効 果
タンパク質

チーズ、牛乳、大豆

大豆製品、穀類、魚、肉

トリプトファン(催眠物質)があって入眠を促す。
脂肪 植物油脂(マーガリン、ごま油、サラダ油など) コレチストキニン(入眠を促進するホルモン)があって入眠を促す。
カルシウム 小魚、牛乳、海草、ごま 神経をリラックスさせ、眠り易くする。
ビタミン ごま、豆類、のり 神経をリラックスさせ、眠り易くする。
生野菜 疲労回復を早め、眠り易くする。
大根菜、人参 血行をよくし、眠り易くする。

食べ物と胃内滞留時間

覚醒時に比べると低いが睡眠中でも胃は活動をしている。胃の活動は眠りの浅い時には活発であるが、眠りが深くなると活動は鈍くなる。就寝前の食事が多いと眠りが全般に浅くなるので、夕食後3~4時間(胃の中での食物の滞留時間)あとの方が眠り易い。

その他

就寝中に羊が一匹、羊が二匹と数えるなど単調なリズムを繰り返して軽い疲労感を作る、楽しいことを連想する、快い音楽を聞くなどがあり、昔からの言い伝えでは鎮静・催眠には玉ねぎ一個の皮をむき半分に割ったもの、あるいは長ねぎの切ったものを枕元に置く、大サジ一杯(10?)の酢を飲む、青じそ入りの焼酎を盃一杯(20?)飲むなどがある。

健康な人は寝付きもよい。寝付きの善し悪しも健康第一からといえる。

 

食品の滞胃時間表

 

(田多井吉之介 短時間快眠法と寝具 人間と歴史社)
食事の時間と量を規則正しくすること。朝食はその日の活動に備えて十分にとり夕食はやや軽くした方がよい。朝食抜きで夕食たっぷりではよいことはない。
12.目覚めをすっきりとするには・・・
目覚め後の目、耳、鼻、皮膚、筋肉などからの様々な刺激で、睡眠中に休んでいた交感神経の働きを高めることが必要である。
たとえば手足の運動やふとん上げも効果がある。
また、お茶やコーヒー、覚醒作用のあるハーブの香りを嗅ぐだけでも効果がある。
13.寝不足は老化を早める・・・
寝不足が続くと成長ホルモンの分泌が少なくなるので、皮膚の艶もなくなり、目がくぼみ、目の下にくまもできるなど老化現象がおきる。
14.ひる寝の効用・・・
要領は10~15分程度のうつらうつらとした浅い眠りをとること。
深い眠りからの目覚めでは、頭もぼーとして快適ではなくなる。
15.居眠り・・・
昼間の居眠り十分は夜の眠りの1時間に相当する。
16.動物の眠りの特徴と睡眠時間・・・
動物は種類によって眠りに特徴が見られるが、基本的には長い不活動期、反応の低下、特有な姿勢、同じような時刻に眠る。
ノンレム睡眠・レム睡眠については哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、軟体動物、昆虫などではそれぞれに相違がある。
魚類・両生類は休息をしていてもノンレム睡眠・レム睡眠はない。
下等な爬虫類はノンレム睡眠だけであり、高等爬虫類・鳥類ではノンレム睡眠とごく部分的、一時的にだけのレム睡眠がある。
哺乳類は完全なノンレム睡眠・レム睡眠のサイクルがある。
その中でも人はもっとも完成した睡眠サイクルを持つ動物である。
最も睡眠時間の長い動物はナマケモノの20時間、コウモリ、アルマジロ18~19時間、猫、リス、マウス、ラット13~14時間、ゴリラ、アライグマ12時間、ジャガー、ライオン10~11時間、チンパンジー、ヒヒ9時間、人、ウサギ、豚八時間、牛、山羊、象、ロバ、羊、馬など2~3時間ほどである。

魚類・両生類などは休息はしていてもノンレム睡眠・レム睡眠はないし、下等爬虫類ではノンレム睡眠だけである。高等爬虫類、鳥類ではノンレム睡眠とごく部分的、一時的にレム睡眠がある。哺乳類では完全なノンレム・レム睡眠があるし、その中でも人(ホモサピエンス)が最も完成した睡眠サイクルを持つ動物である。


●寝 姿

 

17.寝姿についてのアンケート調査から・・・

健康な人が一晩中寝返りもなく同じ姿勢で寝ていることはないが、自分で多いと思われる寝姿について、札幌市および近郊在住者を対象として調査したことがある。19歳~80歳までの男子649名、女子518名、計1167名から回答があり、その結果では上を向いて寝る(仰臥姿勢)は46.2%、右側を下にして横に寝る(右下横寝姿勢)35.6%、左側を下にして寝る(左下横寝姿勢)16.7%、下向(やや下向姿勢を含む)1.9%であった。横寝姿勢での左・右下の比較では右下横寝が多く、また左右横寝の合計では上向姿勢よりも多いという結果であった。

 

18.敷ぶとんの弾性と体重のかかり方・・・

敷ぶとんやマットレスが柔らかいと、ふわふわとした中で気持ちよく眠られるように見えるが、これが全く逆である。柔らか過ぎると安定感がなく、寝にくくて疲労感が残る。

体形として、仰臥姿勢で就寝した時の体圧分布は肩甲部、臀部で大きく、次いで頭部・下肢部であり背の部分は少ない(体圧分布図参照)。

柔らかすぎるふとんやマットレスに寝ると、体圧の大きい肩甲部・臀部の落ち込みが大きいので、自然の状態ではゆるやかなS状になっている体形はW字状となる。

更に沈みこみが大きいと体圧は背部全面に拡がって周囲からの圧力も増大するので寝た時の安定感に欠ける。

これに対して適度な硬さがあり弾性の少ない敷ぶとんの場合では、自然な体形の維持が容易となり沈み込みもないので、体圧は他の体の部分と比べ知覚の鈍い肩甲部・臀部に集中するので安定感が得られる。

19.寝姿と敷ぶとんの弾性・・・

敷ぶとんやマットレスの硬軟が就寝時の体形に影響があることは、体圧の分布との関係で述べているが、この弾性の強弱が寝姿にも影響を与えることを小原二郎氏が実験報告をしている。同氏はマットレスの三層構造を推奨していて、その構造は図のとおりである。

A層は体に面する部分でソフトな感触のあるもの、B層は就寝姿勢を保つ層として固い部分、C層は体圧の衝撃を受けとめる層としている。

a 固いB層があって弾性が少なく、臀部の落ち込まないマットレスの場合

b 固いB層がなく弾性が大きくて、臀部の落ち込むマットレスの場合

c 薄い綿入れの敷ぶとんの場合の三種について睡眠中の寝姿について観察している。

結果は左図下段のとおりである。

aの場合では仰臥姿勢が約45%であるが、bの場合では仰臥姿勢は8%しかなくほとんどが横向きの姿勢である。cの場合は仰臥姿勢が約30%となっている。仰臥姿勢の割合の多いのを寝やすさとして解釈すると、寝具の弾性の強弱は寝やすさを表すものとしている。弾性の強弱は寝姿にも影響するということである。

20.寝姿とベッドの幅・・・

人はそれぞれに寝姿のパターンを持っている。一晩に20~30回ほどの寝返りをしながら眠り、身心の休息と回復をはかっている。

日常使用しているベッドやふとんを離れて旅行中に寝台車、船、レジャーカーなどで狭いベッドで寝ることがある。

成人が50cm以下の狭すぎるベッドで寝た場合は

★通常ではほぼ仰向け、横向き(少し多い)とも同程度であるが、狭いベッドの幅に応じた寝姿をとるので面積の少ない横向き姿となる。

★ベッドから落ちることを防ぐ緊張感から、眠りが浅くなるので、眠り不足となる。

★寝返りが制限さるので、筋肉疲労の回復が出来ず疲労感が残る。

これらはベッドの幅が狭くなるほど影響は増大する。成人ではベッド幅70cm以上が欲しいところである。

21.ダブルベットでも二人寝では安眠できない・・・

ベット内の各々の専有する部分が狭くなるので、寝姿も制限される。互いが大の字になって寝ることなどはできない。

体格が違うとスプリングマットの沈み具合にも相違ができる。一方が寝返りするとその振動はそのまま相手に伝わるし、掛け布団や毛布の動きもある。一晩に20~30回の寝返りを互いに繰り返しては安眠できない。

汗かき、冷え性などの体質の相違は寝床の中の保温、湿度にも影響するので同一の寝床で両方が満足するような寝床内気候を保つことは難しい。

互いに我慢がなければ寝られないことになる。

22.寝姿と性格・・・

「目は口ほどに物を言い」ということわざがあるが、他にも「肩をすぼめて・・・」「肩をいからして・・・」「背を丸めて・・・」「腰を低くして・・・」などと体のし

ぐさで意志を表わす言葉はたくさんある。

西洋のことわざに「王様は仰向けに寝、賢者は横向きに寝、金持ちはうつぶせに寝る」というのもあって、寝姿がその人の性格や生活態度に関係があるともいわれている。

「ボデー・ランゲージ」というのも前述と同じように体のしぐさにもの言う能力があるということである。

アメリカ、ニューヨークの精神科医ダンケル博士は寝相がその人の深層心理を表わしているとして、寝相を四つの型に分けてそれぞれの型について説明をしている。

王様型・・・仰向けで大の字になって寝るタイプで、自信家で包容力が大きく開放的な人に多い。

胎児型・・・体を丸くして寝るタイプで母親の体内にある時の型である。依頼心が強く自己防衛型で開放的でない人に多い。

半胎児型・・・横寝のタイプで温和で周囲に適応して多くの人に好まれ、バランスのとれた人に多い。

うつぶせ型・・・下向きに寝るタイプで、保守的で過大な期待をしない。自立心が強く潔癖、時間に正確な人に多いとしている。

寝返りは一晩で20回~30回が一般的であるから健康人が一晩中同じ姿勢で寝ているということははなはだ稀であるが、その中でも自分で一番多いと思われる寝姿について札幌市のおよび近郊圏でアンケート調査をしたことがある。成人男子649名、成人女子518名、計1167名、調査結果では上向き(仰臥)46.2%、右下寝35.6%、左下寝16.7%、下向き(うつぶせ)1.9%で、左右下寝の合計が51.8%と横寝が多いと答えた人が一番多くあった。

関東地方での成人対象調査でも横寝の方が仰臥より僅かながら多いとの報告もあったので、一般的な傾向と思われる。また健康な子供は大人よりも寝姿の変化が多い。乳児を下向きに寝かせる育児法についてはこれによる利益よりも危険のことを考えると賛成できないと思っている。

23.乳幼児の突然死はうつぶせ寝は仰向けの倍・・・

元気な赤ちゃんが原因不明で突然死する乳幼児突然死症候群(SIDS)について、日本SIDS研究会症例検討委員会が、1994~1997年3月までの間に出生直後から満2才までの突然死した男児90例、女児54例、計144例について、小児科・法医学・病理学等の専門医が調査したところでは、解剖結果SIDSと診断されたもの男児43例、女児28例の計71例であり、男女比率では3対2、生後2か月~6か月までが36例と約半数であり、満3か月までは男児は女児の約2倍、就寝体位ではうつぶせが多くて、約3分の2を占めている。

日本では新生児は仰向けに寝かせるのが普通であったが、戦後欧米からのうつぶせ寝の考え方が若い母親から普及し始めた。理由は頭部の形がよくなる、ゲップが出やすいので呼吸障害が防げるなどであったが、1980年代になりSIDSの原因調査で、うつぶせ寝の多いことの調査報告が欧米の各国から発表され、以来うつぶせ寝についての見直しがされている。

24.仰向けの寝姿は平和のシンボル・・・

動物の多くは立ったままか腹ばいになって眠る。仰向けになって眠ることを普通としている動物は人間だけといってよい。しかし飼い猫や動物園での虎やライオンが時折仰向けになって眠るし、アフリカの自然動物園でもライオンが仰向けに寝ているのを見かけている。前者は安全な環境で飼育されていることからであり、後者は地域の中で最強で、他の動物から襲われる心配もなく、しかも集団で休んでいる時である。動物の多くが眠る時に身体の中で最も防御に弱い腹部を下にする姿勢はごく自然といえる。高本健太郎博士の研究「圧反射」によると、皮膚が圧迫されるとその部分の感覚は鈍くなるがこの圧迫された部分と正反対の部分の感覚は鋭敏となるというように、腹部を護り背部を敏感にし、かつ急な動作に対応できる動物の寝姿は理にかなっているといえる。

昔の枕には高いものが多い。女性には大きな日本髪があったし、男性に髷があったので、髪形の保護のためでもあるが横寝姿勢が多いことも高くなった理由の一つである。横寝姿勢の方が非常の時にすぐ起きられるし、身体の側面で外の気配をすばやく感知することが出来るからである。戦国時代の武士にとっては特に必要であった寝姿と思われる。そのように考えると仰向け姿勢の寝姿は平和のシンボルともいえる。

25.寝返りの効用・・・

人は一晩中同じ姿勢で寝ていることはない。レム睡眠の前後には必ず寝返りをしている。一晩の間に20~30回ほどの寝返りをすることで、一定の姿勢で寝ていることによって起る体圧による血行不良やうっ血を防ぎ、筋肉の緊張をほぐし、筋肉疲労の回復をよくしている。寝返り回数には個人差があるが、個人の回数はほぼ一定している。

敷ぶとんの過度な弾性や、柔らかすぎると体の沈み込むような姿勢となり、寝返りが難しくなるので、敷ぶとんはよい姿勢で寝られるように適度な固さとクッション性が必要となる。

掛ぶとんが重すぎると寝返りが不自由になるし、血圧も上昇するので心臓への負担も増大するので掛ぶとんの適度な重さも必要条件となる。また寝衣、シーツ、掛ぶとんカバーなどは寝返りがし易い、摩擦の少ない布地がよい。冬期間に使われる厚地の寝衣やボーアシーツのような体動時に摩擦の多いものは疲れ易い。

さらに寝返りにおける大きな効用は体を動かすことによって寝床の空気を移動して放熱・放湿効果に寄与していることである。

26.食後のひと休みは右腹を下に・・・

人は活動している時には交感神経が働いており、休んでいるときは副交感神経が支配をしている。

胃の運動は迷走神経という副交感神経が支配をしているので、食後で食べ物が胃の中にある時は、活動したり神経を使ったりすると食べた物の消化を妨げる。食後は気持ちをリラックスさせ、右腹を下になるような姿勢でひと休みをするとよい。

この姿勢をとると胃の出口が下になるので、胃の内容物を容易に腸に送ることができる。高齢者や胃の働きの弱い人などは食べ物が長い時間胃の中に滞りがちなので、このような食後のひと休みは健康によい。「食後の一睡万病丹」ということわざがあるほど、食後の軽いひと休みは万病の薬のような効きめがあるとしている。

ただし、寝る直前の食事は睡眠中に脂肪となって体内に残るので気をつけた方がよい。

右腹を下にする姿勢では心臓が上部になるので圧迫なくよいともいう。左下でも肋骨で保護されているから影響はないと思うが、筆者の寝姿の調査では、横寝の場合は右下が多い。

27.冷たいふとんではなぜ身震いをするのか・・・

今は建物もよくなり、寝具も暖かい。更にいろいろな暖房寝具もあるので、冷たいふとんに入って寝ることは少ないが、私が少年の頃まで育った田舎では冬には外気が零下十度以下になることは珍しくなく、寝室でも零度近くまでになることがある。それでも寝室には暖房がないので、母が湯たんぽを入れてふとんを暖めてくれたり、自分で入れたりしたものである。時折ふとんを暖めない時など、そろそろと冷たいふとんに入ると思わずぶるぶると身震いをしながら、じーっと身をちぢめ、頃合いを見てそろそろと手足を伸ばしたものである。時には思い切り体を動かし、手足をこすったりして体を暖め

たりした。

身震いが起きるのは体が外部からの寒さに対しての防御作用で、筋肉を休みなく伸びちぢみさせることによって発熱させ、体を暖めるからである。冬に暖かい家の中から外に出て冷たい外気に触れた時にも身震いが起きる。小便をしたあと身震いをするのも、放尿による熱の放出を補うためともいわれている。

28.夜寝る前と朝起きた時の身長は・・・

朝起きた時と夜寝る前とでは、身長は夜寝る前の方が2cmほど短いが、平常は身長を朝夕二回測ることはないので気が付かない人が多い。小学生では1.3cm、大学生では1.8cmほどといわれている。これは日中立っている時には体の重力は全部下方に働くので、体を支えている背骨に長時間重力がかかるからである。

背骨には頚椎(7個)・胸椎(12個)・腰椎(5個)・仙椎(5個)・尾椎などがあり、それぞれの骨の間にはゴムのように弾力のある椎間軟骨がある。日中の歩行や活動、更に重い物を持つなどの力が加わって、それぞれの椎間軟骨が僅かづつつぶれた結果その合計分だけ身長が短くなったのである。

夜になって横になり、寝ることによってこの椎間軟骨のつぶれが回復するので元の身長となる。靴は夕方買うとよいというのも日中歩くことによって足が膨らむので、この大きい時に靴を合わせると窮屈にならなくてすむからである。もちろん足の太さも夕方には太くなるが、何れも寝ている間に回復する。横になっただけでも心身が休まり回復するものである。

29.トイレに起きるのは女性が多い・・・

寝たら朝までぐっすり眠って一度もトイレに起きない人も多いが、夜にトイレに起きるのは男性よりも女性が多い。

尿意を感ずるのは男性・女性とも膀胱中に2~300mlほどの尿がたまった時であるが、これを我慢するとなると膀胱の容積の大きさで差がでてくる。大きさは男性は平均500mlであり、女性は平均420mlである。これと尿道の長さも影響するという。膀胱から尿が出るまでの長さは男性は16~18cmであり、女性では3~4cmと短い。

30.いびきはなぜかく・・・

初代世界いびき学会名誉会長であったいびき研究家の耳鼻咽喉科医池松武之亮先生によると「いびきとは睡眠中において上気道またはそれに関与すもの、あるいは分泌物などが、呼吸に伴ってする摩擦音や振動音の総称である」とし、さらに分かり易くいえば「いびきとは睡眠中の上気道から出現する呼吸騒音」であると説明している。鼻から入った空気は鼻孔や咽頭腔を通りながら適度に温められ、湿度も加わり空気中のほこりなども除かれてきれいな空気となって肺に送られる。この時の気道の抵抗力が呼吸音となる。この抵抗力が何かの原因で増大すると呼吸音が大きくなりいびきとなる。普通気道の抵抗力は47%程度である。平常の会話が45~50ホンなので、いびきの分岐点は30ホン(小さないびき)以上である。抵抗力が80%以上では70ホンの爆音型いびきとなる。浅いノンレム睡眠の時に多い。

いびきの原因 体形・体質・病気・暴飲暴食など原因となるものは多いが、睡眠中の姿勢では仰臥時がいびきをかき易い。いびきをかく人の70%が仰臥姿勢という(池松氏)。これは上気道に関係する筋肉がたるむので軟口蓋(のど近くの柔らかい上あごの部分)や口蓋垂(のどちんこ)が下がり、舌ものどの方へ垂れて気道が狭くなるので、呼吸の抵抗力が増大して気道壁との摩擦音や振動音が大きくなるからである。

枕が高すぎたり、まくらの手前に頭をのせたり、逆にあごを高くするような姿勢、 ベッド・マットレスが柔らかすぎて体が曲がる姿勢、首、ほほ、あごなどを手で押すような姿勢、両手を頭の方へあげたり、頭の上で組んだりするなどいずれも上気道が圧迫されていびきの原因となる。

いびきの予防 基本はいびきの原因となるようなことをしないことである。睡眠時の姿勢が横向きになるように布や書籍などを枕の片端に入れて斜めにする。敷ぶとんの片端に物をいれて斜めに高くして横向き姿勢となるようにする。

いびきの音に反応して音を出したり、振動を起こしたりするいびき防止枕もある。

31.寝ちがいになるのは・・・

朝起きようとして頭を上げたとたん、ズキンと首の後や左右どちらかの側面に激痛があって驚くことがある。首をちょっと動かしても痛くて、しばらくは首を曲げたまま四苦八苦することなど経験された人も多いことと思う。運動などで疲れて不自然な姿勢のまま寝込んでしまったり、枕の高さが合わなかったりした時になりやすい。

睡眠中は筋肉がゆるんでいるので、首を不自然なまま長時間曲げたままでいると、首の一部の筋肉が過度に伸ばされることから起きる症状で、首を動かすと痛いし、首の回りや肩の部分を圧しても激痛がある。痛みから寝ちがいということは分かるし、多くは首をそろそろ動かしながらでもその日の内に治るが、時には数日も続いて湿布や塗り薬の世話になったり、鎮痛剤や、筋弛緩剤など、病院にかかるようなこともある。

枕の高さが合わないと思ったら要注意である。

32.腰 痛

背柱は脊椎(頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙椎、尾椎)がゆるやかなS字状に重ね連なった形で、立った時には体重を支え、運動の衝撃を柔らげ、体を前後、左右に曲げたり、ひねったりの動作が容易にできる構造になっている。この時には腰椎での負担が大きいので、過重な負担がここにかかると腰痛の原因となる。およそ80%ほどの人が生涯に一度は腰痛を経験するといわれているほど多い。特に20代~40代の働き盛りに多発するといわれている。多くは腰に負担をかけないようにして、安静を守ることで治るが、安静にしていても痛みが進むようであれば、他の原因も考えて病院で受診すべきある。体の深部に感ずる腰痛についても同様である。

敷ふとんが柔らか過ぎると就寝した時に体の重い部分(臀部・肩胛部)が沈んで体形がW字状になる。重い腰部が沈むことで腰部での負担が増加する。この体形での寝返り(一晩に20~30回)では上半身だけの寝返りとなって腰部での負担が更に増加する。

敷きふとんを硬く(センベイふとん)にすると寝返りも全身で容易に出来、腰の負担も軽減する。柔らかい敷ふとんは特別な場合以外は避けた方がよい。柔らかすぎるベッドの場合は、マットの上にボ-ド板やタタミなどを重ねて下を硬くすることも一方法である。この場合は硬い敷の衝撃を下の柔らかいマットが緩和するので効果的である。

33.夢・・・

人はさまざまな夢をみるし、夢に関心を持っている人も多い。しかし、夢が科学的に研究されるようになったのはフロイドの精神分析からである。その後の睡眠に関する研究が進んでここ20~30年ほどの間には研究発表も多く、進歩は実に目覚ましいものがある。それでもまだまだ分からないことは多い。

眠りには体の筋肉だけが休んでいる浅い眠りのレム睡眠と筋肉も脳も休んでいる深い眠りのノンレム睡眠とがある。

このレム・ノンレムのサイクルは一晩に5~6回ある。夢はこのレム睡眠の時が多い。

5~6回現われるレム睡眠の合計は1~2時間ほどになるが、そのつど夢を見てはいるが、多くは目覚めた時には忘れている。

夢の内容がつじつまが合わず、支離滅裂なのはレム睡眠の時には脳の活動はあるものの完全な目覚めの時とは異なって寝ぼけた状態にあるからである。夢では脳に蓄えられた過去の経験や知識などが何かの刺激によって甦るが体内の感覚や外部からの刺激の種類などによっていろいろな形で現われる。

34.よだれ(唾液)・・・

唾液(つば・よだれ)は食事をするとその刺激で顎下腺(下顎部分にあって漿液性・粘液性の唾液を分泌するが、主に漿液性の唾液を分泌する)、舌下腺(舌の下にあって漿液性・粘液性の唾液を分泌するが、主に粘液性の唾液を分泌する)、耳下腺(耳の下にあって漿液性の唾液を分泌する)、小口腔腺(くちびるなど口腔粘膜にあって粘液性の唾液を分泌する)などから分泌される。またおいしそうな食事を見たり匂いをかいでも条件反射で唾液は分泌されるが、食事のこと以外の時でも唾液が分泌されている。

日当たりのよい縁側などで、うつらうつらと気持ちよく居眠りをしながらよだれ(唾液)をだらーと垂らしている風景をみることがある。このようなことは電車の中や寝床の中でも見られることである。これは何の緊張もなく全くリラックスした状態の時で頬の筋肉もゆるんで口から溢れた唾液が出ている状態の時である。この食事以外のリラックスした状態の時に分泌される唾液は粘りが少なく漿液性唾液であり、緊張している状態の時には口の中が乾いて粘りの多い粘液性の唾液である。

唾液は無色・無臭・無味で、一日に分泌される唾液の量は成人で1~1.5Lほどであるが、体調によって分泌される量が変化することで体内の水分が調節されている。唾液の水分は腸で吸収されて体内に戻され有効に利用されている。

唾液にはいろいろな成分が含まれていて重要な役割を果たしている。粘っこい成分のムチンは食物と混ざって食道の通りをよくし、プチリアンは糖質消化酵素として働き、パロチンは血中カルシウムや糖・蛋白質の代謝に寄与しているなど、私たちの健康維持に不可分な働きをしている。成長期の赤ちゃんはいつもよだれを垂らしている。成人でも唾液の多いことは老化を防ぎ若さを保っているといえる。

35.歯ぎしり(ブラキシズム)・・・

起きているときでも歯ぎしりはあるが、睡眠中では睡眠深度の浅いレム睡眠に時々見られる現象である。本人が気付かない程度のものが多く、また子供のころにあってもほとんどが成長とともになくなる。

型としてはグライデング(歯をこすり合わせる)、クレンチング(歯をくいしばる)タッピング(上下の顎をカチカチと噛み合わせる)などがある。原因については明確ではないが、精神的原因による緊張、無意識な中に起きる不快感などで咀嚼筋や顎関節が歯や歯の周囲組織と関連して発生するといわれている。

ブラキシズムで過剰な力が口腔内で作用していると口腔内の環境機構がくずれて、神経、筋の障害となる。習慣性になると起床時の咀嚼筋の疲労感、頭痛、顎部ー頭部の関連痛などの誘因となる。虫歯の人よりは歯並びの悪い人に多いという。

対策としては

★歯科医院で咬合の異常を診てもらう。

★精神的因子となる原因の除去。

★安静時には口は閉じても上下の歯が接触しないようにするなどが言われている。


 

●寝床内気候

 

39.寝床内気候とは・・・

一般にはあまり聞き馴れない言葉だが、寝床のなかの温度や湿度などの気象状態のことである。これらは寝具の種類、組み合わせ、使用方法、寝室内の温度・湿度・気流などさまざまな条件によってつくり出される。よい眠りのためには寝付きがよく、ぐっすり眠り、目覚めもさっぱりと快くなければならない。

寝床の中がじめじめと湿っぽかったり、暑すぎたり、寒すぎたりでは心身の休養にならないし、よい眠りをとることもできない。

睡眠中の代謝量は昼間の安静時と比べて20%ほども低くなるし、産熱量も体温の調節機能も低下するので、体熱を保つためには寝床の中を温かくすること、つまり寝具の保温性が必要となる。また睡眠中の不感蒸泄や発汗で寝床内の湿度が高くなり過ぎないように、寝具がこれらの水分を吸湿し透湿して寝床外に放散する機能も大切である。

研究者の報告では眠りのための快適な寝床内気候は31度~33度Cであり、湿度は40~60%であるといわれている。就寝中にこれらの条件を満たすために、寝ている時でも夏の暑い時には掛ふとんはねのけたり、冬の寒い時には寝具を寄せるようにして肩口を覆ったりして保温を善くしようとする。

寝具についても季節や室内温度の変化に応じて種類を変えたり、組合せを工夫して 使っている。

夏期は夏ふとん・タオルケット・綿毛布などのように保温よりも薄くして吸湿、放湿、通気性のよいものを、冬期にはやや厚くして保温性のよいふとんや厚手の毛布などを組み合わせたり、肩口からの放熱を防ぐために肩当てを使ったりする。

寝具と一口に言っても種類は大変多い。敷用だけを見ても、敷ふとん、マットレス、ベットパット、シーツ類などがある。構成素材も綿・毛・絹などの天然繊維や合化繊、化学製品や金属、これらの混合したもの、組み合わせたものなどがあり、更に寸法・重量・構造などの違いがある。掛用についてはいっそう種類が多くこれらに加えて毛布、タオル製品、羽毛製品、カバー類などがある。またネマキ、パジャマなどの寝衣の種類も多い。これらは各々が保温性、吸排湿性、通気性など寝具についての特性に差があるので、これらを上手に組み合わせることによってよい寝床内気候を得ることができる

繊維の持つ水分率の大小は吸湿量にも差がある。水分率は羊毛、絹、レーヨン、綿の順に多く、合成繊維類は改質加工されたもの以外は少ない。

 

41.発 汗・・・

真夏日では普通に生活している時でも一日に2?ほどの汗が出る。このような時に激しい運動をすると、汗の量は4~6?ほどになる。これは発汗量としては最大量に近い。

発汗は体温調節のためで1??の発汗で584カロリーの熱量が消耗される。

発汗には汗腺からの分泌で環境温度の高いときや運動などによって体温が上昇したときに出る汗と、精神機能の刺激や疼痛・窒息などのときに出る汗とがある。前者を温熱性発汗、後者を精神性発汗と呼んでいる。

                            ┌──  一般皮膚の汗腺

        ┌─温熱性発汗中枢─分泌神経┤

 発汗の器官┤                   ├──  腋窩の汗腺

        └─神経性発汗中枢─分泌神経┤

                            └──  手掌と足蹠の汗腺

 

温熱性発汗身体が高い温度に会うと、手掌と足蹠以外の全身に同時に同じ経過の発汗を起こす。汗量は身体の部位で差がある。また発汗経過の特徴として高温に会ってもすぐに発汗するのではなく時間をおいてから徐々に発汗量が増加する。

精神性発汗身体の中でも手掌と足蹠は汗腺の分布密度の多い部分であるが、この部分は高温には反応しないで精神的な刺激にだけ反応して発汗する。

汗の成分 汗は身体のもろもろの分泌液の中では希薄な液体で、固形成分は0.3~0.8%程度である。また各成分の比率(%)は塩素(0.32)、ナトリウム(0.2)、カリウム(0.02)、カルシウム(0.002)、マグネシウム(0.001)、尿素窒素(0.015)、アミノ酸窒素(0.001)、アンモニア(0.005)、クレアチニン(0.0003)、ブドウ糖(0.002)、乳酸(0.035)である(久野寧「汗の話」から)。

余分な発汗を防ぐためにも、よい睡眠のためにも寝床内の適温は必要であり、季節に応じた寝具の組み合わせは大切である。

42.寝 汗・・・

寝汗は病人がかくとは限らない。子供などが寝ていて髪を濡らすほど汗をかいていることも珍しくはない。

汗の調節は脳の視床下部にある発汗中枢で行われている。この発汗中枢は睡眠中に興奮が高まって発汗させる。これは睡眠中だけではなく日中の運動中にも起こる。

睡眠中の発汗である寝汗は生理的なものといわれている。もちろん病気による発熱の解熱作用での寝汗もあるので、異常な寝汗は要注意である。

発汗の量はノンレム睡眠・レム睡眠のサイクルの中で就寝後の最初のサイクルの時が多い。睡眠深度三~四の深いノンレム睡眠の時に多く、明け

方の目覚めのころには少なくなる。

43.寝床内の温度と湿度の変化・・・

寝床内温度

寝床の中の温度・湿度ともそのままの状態では室内の温度・湿度と同じである。

入床すると体からの放熱で寝床内の温度は上昇し、これに伴って寝具の温度も上昇する。体からの放熱で供給された熱量と、寝具から排出される熱量が平衡状態になると、寝床内の温度は安定したものとなる。この時の温度は体幹部がふとんに接する中央部近くが最も高く、敷ぶとんが床面に接する部分が最も低温であり温度の変化も遅い。

寝床内湿度

寝床の中の湿度は入床による体熱で寝床内温度が上昇し寝具も加温されるので寝具表面からの一時的な排湿によって寝床内の湿度は上昇する。温度の上昇とともに相対湿度は低下する。温度が一定になると湿度も安定する。

睡眠中に排出した不感蒸泄(水分)は寝具の吸湿透湿作用で寝具外に排出されるが、敷ぶとんの床面側では時間の経過とともに湿度は徐々に上昇する。掛ぶとんの場合は湿度は寝室内の空気の中に放散されるので低湿となる。

相対湿度を絶対湿度(空気中の水蒸気量)に換算すると各部位での差は少ない。

なお寝床内での気流は寝返りなどで一時的に発生するが、安静時では不感気流として上腹上側に垂直気流があるが、身体に平行する気流は少ない。また下肢側部も少ない。肩部では気流の変動がある。

44.ふとんの透湿性・・・

入床後は体からの不感蒸泄や発汗などで寝床内の温度が上昇して水蒸気圧が高まると、水分はふとんわたの繊維間の隙間を通って寝室内の低い水蒸気圧の空気中に向かって移動し排出する。この作用を透湿という。

水分が寝具の外に排出する過程は吸湿、排湿と共に透湿作用の多少が影響する。綿・羊毛・絹などの天然繊維のわたの場合は、繊維に親水性があるので吸湿、透湿、排湿の作用がある。合成繊維のわたの場合は、繊維に親水性が少ないので吸湿よりは透湿によって水分が排出される。繊維の集合体であるふとんわたの場合は、特に繊維密度が透湿性に影響する。つまり密度が粗く空気層(含気率)が多いほど空気の流れ(通気性)もよくなり、透湿性も増大する。密度が多くなるほど含気率は低くなって、空気の流れ

も悪くなり、透湿性は低下する。

45.快適さの綿わた敷ぶとんと羊毛わた敷ぶとんの比較と室温・・・

綿わたの敷ぶとんと羊毛わたの敷ぶとんとの比較では平均室温が二十七度C以上では、綿では半数近くの人が熱のこもりを感じているが、羊毛の場合はほとんどの人が熱のこもりを感じていない。室温十七度C以下では羊毛わた敷一枚では寒さを感じる人が多くなるので、綿わた敷ぶとんとの二枚重ねが必要となる。

46.快適さの綿わた掛ぶとんと羽毛掛ぶとんの比較と室温・・・

商品科学研究所が東京、神奈川、千葉、埼玉の家庭を対象とした実態調査では、綿わた掛ぶとんと羽毛掛ぶとんとの比較では、温かいということで全般に羽根ぶとんの方が評価が高い。さらに寝室内の温度差と評価との対比では綿掛ぶとん一枚の時の使用範囲は室温17~22度Cであり羽根ぶとん一枚の時の使用範囲は15~20度Cであったと報告されている

寝床内の温・湿度の比較では吸湿性のよい綿わたぶとんの方が寝床内の湿度が低いので暑いと感じている時でもむれを感じないが、羽根ぶとんでは暑いと感じた時は寝床内の温湿度とも綿ぶとんの場合よりも高い。寝床内が快適と感じた人の入床時の室温は夏季では27度Cまでであり、起床時の室温が28.5度C以上では熟睡できない人が増加する。冬季では入床時に快適感があるのは室温12度Cまでで起床時の室温が8度C以下では熟睡できない人が増加する。

冬季には寝具を重ねて使用することで保温するが、重量が増加すると寝心地に影響するので、重すぎる寝具とならないために入床時の室温を22~27度Cとやや高めにしてを寝具を調整する時の目安の一つとしている。

47.綿わた掛ぶとんと羽毛掛ぶとんの寝床内気候・・・

保温性の綿わた掛ぶとんと羽毛ふとんとの比較では羽毛ふとんがよい。掛ぶとん一枚の室温との対応比較では、綿は室温17~22度に対して羽毛は15~20度Cである。湿度では吸湿性のよい綿わた掛ぶとんが羽毛掛ぶとんより低湿なので、寝床内が同温度の時は綿わたの方が暑苦しくない。

商品科学研究所 第3回睡眠環境シンポジュウム(昭和六十二年)

48.快適な寝具の組み合わせ・・・

季節ごとの寝室内の温度に対応した個人の快適な寝具の組み合わせについての例として、商品科学研究所の実態調査による報告がある。各人の快適な睡眠環境作りの見直しの一助として紹介する。

49.低温やけどに注意・・・

湯たんぽ、あんか、かいろなどの寝床用の暖房具で、手で触れてもやけどをするような熱でなくても、長時間、直接皮膚に触れていると、普通にやけどをするよりも皮膚の深いところまでやけどをすることがある。これらの寝床内の暖房具の使用では、布、タオルなどで包み、さらに体から離して使用するか、また一定時間経過して寝床内が温まったあとは除くなどの配慮が要る。特に病人の場合などは要注意である。

●繊維の種類と性能

50.繊維の分類・・・

 

天然繊維
化学繊維

51.各種繊維の性能・・・

52.繊維の水分に対する性能・・・

1.繊維の吸湿性は、繊維自体を構成する高分子化合物がもつ「親水基」によることが 多い。この親水基には、ヒドロキシル基(―OH)、アミノ基(-NH)、カルボキシル基(-COOH)、アミド基(-NHCO)がある。これらは水素結合によって水分を吸着させるので吸湿することが容易となる。

植物性繊維(綿、麻、亜麻、レ―ヨン、キュ―プラなど)は主成分であるセルロ―ズ(綿では九四%含有)には多くのヒドロキシル基があるので、吸湿性はよい。

動物性繊維(羊毛、キヤメル、カシミヤ、モヘヤ、その他の獣毛、絹)主成分である蛋白質はアミノ酸の重合したものであり、分子中にアミノ基、カルボキシル基、アミド基があって、吸湿性はよい。

合成繊維は植物性繊維・動物性繊維のいずれかよりも吸湿度は低い。ナイロンは分子中にアミド基を、分子末端にはアミノ基、カルボキシル基をもっているが、動物繊維より吸湿性は少ないが、合成繊維の中では多い方である。

ポリエステルは分子末端にだけヒドロキシル基、カルボキシル基を持っているが、吸湿性はナイロンより少ない。アクリルはアクリロニトルが主成分で吸湿性は少ない。

2.透湿性は湿気が繊維と繊維の間を通って一方から入って反対方向に抜ける性質で、吸湿性の少ない繊維でも通気性があれば、透湿作用がある。しかし、吸湿性のない繊維が押しつぶされて繊維集合体の密度が大きくなると通気性が低下するので透湿性も低下する。従って加重の大きい敷ぶとんやパットには吸湿性の少ない繊維は不向きである。

3.吸水性 繊維と繊維の間に水分が吸収される性質で、繊維自体に吸湿性がなくても表面がぬれる状態で隙間が適当ならば、毛細管現象で繊維全体の隙間に浸透することが出来る。発汗が多い時の寝衣の場合など吸湿性と共に重要な性質となる。

53.繊維の防虫・防黴性・アイロン適温・熱伝導率など・・・

1.防虫、防黴性

防虫、防黴、防菌等の加工をしない状態での繊維の種類ごとでは

よいもの     ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニール、ビニデリン、ナイロン、

          ビニロンなどの合成繊維類

ややよいもの  レーヨン、アセテートなどの再生繊維

弱いもの     羊毛、絹、綿など

2.アイロンの適温(℃)

麻、綿(190)、絹(140)、羊毛(160)、レーヨン、キュープラ、ポリエステル

(110~150)、アセテート、ビニロン、ナイロン、アクリル(110~130)、アクリル系、ポリプロピレン、ポリウレタン(90~110)であるが、繊維組成、厚さ、水分の有無、アイロンの圧力、アイロンの使用時間の長短などで差がある。

3.熱伝導率(CAl/?2/sec/℃)

水(0.0014)、空気(0.00056)、絹(0.000887)、羊毛(0.000479)、綿(0.00014)

54.繊維のふとんわたとしての特性・・・

繊維の種類・品種・等級・加工法などで性能に差がある。また同一品であっても、わた(繊維集合体)としての繊維の密度、配列方法、厚さなどで、ふとんわたとしての弾性・保温性・吸排湿性・歪率などに差が出るので各々の特性を活かした繊維の選択と製造方法及び用途を考慮すべきである。

●敷ふとん

●掛ふとん

一般にわた(繊維集合体)の中の繊維密度が1??当り0.04?のときが保温率がよい。この傾向は太い繊維の時よりも、繊維が細いほど影響が大きい。


●枕

 

71.なぜヒトは枕をするか・・・

哺乳類で二足歩行をするのはヒトだけである。ヒトの祖先は化石人類と総称され、 猿人ー原人ー旧人ー新人の順に進化して現代に連なっている。猿人は三百万~百万年前ほどの化石人類で、大正13年(1924年)南アフリカで化石が発見された。頭骨の大(後頭)孔の位置や腰部の骨格の構造から二足歩行で前肢を自由に使っていたと想像される。爪も牙も力もなく、妊娠期間が長い、赤子の成長も遅いなど生活環境が他の動物に比べ極めて不利な条件でありながら生存しかつ繁栄ができたのは、二足歩行のお陰である。二足歩行は体型を変えサバンナでの視野が広がり、両手で道具を使う、食料を運ぶなど他の動物と異なった行動ができるようになると共に脳の発達に寄与したからである。猿人はおよそ身長120?、脳の容積450~600??くらい、原人はおよそ身長150?、脳の容積800~1100??、旧人では脳の容積1300~1600??と現代人に近くなっている。

二足歩行による体型は四足歩行の動物や類人猿と比べると

●歯槽が前後に短く放物線状(類人猿はU字状)で後頭部、側頭部が発達して丸みが ある。

●脳の続きである脊髄がとおる大(後頭)孔は頭部下面の中央部近くにあって、脊椎 は直上に頭部を支えるように連なっている(四足歩行動物の大(後頭)孔は頭部下面 の端に近く、脊椎は斜めに入って頭部をぶら下げるような形となる)ので二足歩行には好都合である。

●脊椎はゆるやかなS字状(四足歩行動物は内臓の重みをさげるのでアーチ状)になって体重を弾力的に支えている。

●骨盤は上体を支えるために横に広く、発達した筋肉がある。

●膝が真っ直である。

などがあげられる。しかしこれらの体型で横になると地上では頭の部分が低くなるので、枕あるいは枕に類似した機能をもった物が必要となったと想像される。敷ぶとんがなく床上に寝た時代でも、枕が必要であったことがうなずける。これは現代でも同じである。

 

72.枕の発想のはじまり・・・

最初は枕のなかった時代があったことは確かである。その後、枕がいつ、どのようなきっかけで使われ始めたか、興味があるが説明された確かなものは見当らない。中国の学者郭白南も「文献もないので推測しかない」と書かれているのを見ると世界には同じようなことを考えている人が結構いるようである。

ヒトの祖先の体型からみて、猿人の時代(300~100万年前)と想像されるが、これもはなはだ不確かである。これは猿人の脳の容積は現在のゴリラの脳の容積(400~500??という)より大きいこと、体重比から見ると脳の容積は更に大きくなることからの想像である。このような見方をすると、100万年~50万年の原人が枕を使用していても不思議ではないような気もする。

化石人間と呼ばれているヒトの祖先が長い間の生活様式の移り変わりの中で、幾つかの偶然から枕あるいは枕のようなものを考えついたものと思われる。つまり

1、自分の腕を曲げたり、他人の膝や体の一部に頭をのせると、具合よく寝られることを知った。このようなことは現代でも見られることである。

2、自分の腕を長時間していると腕がしびれるので、身近な草、木、石などの中から適当な大きさのものを選んで枕とした。

3、少し傾斜した地面では具合よく寝られることを知った。これはハンモックで寝た時には枕がなくても頭部を高くなるのと同じである。

4、偶然、頭部に枕のようなものが当たって、具合よく寝られることを知った。

5、枕のようなものがあると、寝返りがしやすい。

6、周囲の音が聞きやすくなる。戦国時代、不意の敵襲に備えてよく聞こえるようにとえびら(矢筒)を枕とした。

などが想像されるが、それがいつの時代からなのか興味があるが、大変難しいことでもある。枕の化石はまだ発見されていないようで発表されたものは見当らない。

73.枕の大きさについて・・・

昔から使われていた詰め物枕のほとんどは坊主枕(くくり枕)と呼ばれた丸型の枕であったが、昭和下期からの寝具の洋風化やベット・マットレス・フォーム類の普及から丸型の枕は少なくなり平型(洋枕)が多くなった。

昭和32年~35年の長野県での調査(信州大 太田久枝氏)では、坊主枕は児童で76.8%、成人では都市で88.8%、農村で75%であったから、丸枕から平枕への変化は急速であったといえる。現在では丸型の枕を販売店で見ることは少なく なった。

枕の長さは江戸時代の箱枕や撥形枕につけられるくくり枕に見られるように、20~25?でも寝られるが、この場合は髪型の保持を優先していたので、寝返りも不自由、寝心地もよいとは思われない。前記の太田久枝氏の調査では成人の枕の長さは平均33.4?、昭和37年広島県の調査(広島大 児玉松代氏)では、40?(前後8.9?増減)と報告されている。現在では丸型平型ともこの時代よりは長くなっている。選択に当たっては長さは肩幅に10?以上を加えた長さがよい。眠る時ぐらいは多少

寝相が悪くても心置きなく眠りたいものである。現在販売されている枕の多くは50?以上あるので心配はない。幅は昭和37年の調査では成人では20~32.2?であったが、現在ではやや大きめが多い。詰め物によって差はあるが、およそ第7頚椎骨から頭頂までの長さに5?ほど加えたくらいがよい。羽毛・パンヤなど柔らかい中材の場合はソバがらなどの中材の時よりは大きくてもよいが、大きすぎると座ぶとんを重ねた端に頭を置くような形(ちょんがけ型)になるので寝る姿勢も悪く、寝心地もよくない。

高さは枕の寸法の中で最も留意すべきところであり。枕を使用しての良否は高さの適、不適によることが多い。枕の高さは、枕がなくてもねられる人、低い枕や高い枕の人、慣れた枕でなければ寝られない人など、個人の体型・寝姿・習慣・好みなどの差と共に、敷ぶとん、マットレスなどの弾性の強弱や沈みの大小などによっても差が生ずる。  

仰向けに寝た時の体圧の分布は平均体重の人で、およそ臀腰部に40%、肩甲部16%、踵部で4%、頭部5%と集中するので、敷が柔らかすぎると体圧の分布から寝姿はWも字のようになる。枕をした場合は頭部の圧は枕の凹みで吸収されるので枕そのものの沈みはない。従って敷が柔らかいほど同じ枕でも使用時の高さは大きくなる。ハンモックで寝た場合には枕が不要になるのと同じ理由である。

枕の高さについては『「枕を高くする」と安眠はできない』のところで説明した通り、自分の体型、寝具(特に敷)に合ったものを選ぶべきである。

74.枕の詰め物に必要な特性・・・

固さ 枕は柔らかすぎると高さの安定性を失うし、周囲から頭側部への圧迫もあって寝返りもし難く、寝苦しいものとなる。しかし特別な目的がない限り、石や木では高さは安定しても多くの人には固くて痛い思いをする。やはり枕には適度な柔らかさは必要である。

吸熱・放熱性(熱伝導性) 昔から頭寒足熱といわれているし、学者の研究で証明もされているが、頭頚部が温かすぎると寝苦しくて安眠の妨げとなる。枕と頭頚部との間の温度は体温より5度~9度ほど低いのがよいとされている。常にこのよい温度状態であるためには枕の詰め物は吸熱性があって更に放熱性のよいもの、つまり熱伝導性のよいものを選ぶべきである。

吸湿・放湿性 頭頚部がむれては寝苦しい。従って睡眠中の不感蒸泄(常時皮膚から発散している水分)や発汗による水分を吸収しつつこの水分を空中に放散させる作用があること、そしていつも快適な湿度状態が保てることである。一般に植物性や動物性の天然素材には具わっているものが多い。

通気性 放熱性、放湿性とも詰め物の間の空気の流れがよいほどこの機能が発揮される。小豆・ソバがら・もみがらのような粒状の素材や、羽根(フェザー)・わら・いぐさのように粗目になる素材は素材間の接触面積が少ないので空間が多く通気性がよい。

その他使用時のよい感触、詰め物の音が小さく、不快でない、破細しない、異臭がないなどがあげられる。

75.枕の詰め物の種類と特性・・・

これまで枕の詰め物として使用されてきたものは多い。私の研究室で保管されているからものだけでも130種類、300品種ほどがある。ソバがら一つを見ても殻の大小、三枚がら、一枚がら、三枚がらと一枚がらの混合したもの、厚い、薄いなど品種・産地・ソバ粉の生産工程の相違などで差がある。最近のソバがら枕に虫がついているのに、100年以上前のソバがら枕に虫害が見られない。これなどは江戸時代~明治上期のころには石臼でひかれた一枚がらであり、残留する粉がないことなどが原因と思われる。

詰め物として広く使用されている代表的なものについての各々の評価は次表のようになる。 省略

76.枕の主役ソバがら・・・

枕の詰め物の種類は多いが、古代から現在まで最も長く最も数多く使われているのはソバがらである。多くの人が経験によってそのよさを知っていたからである。

ソバはタデ科ソバ属の一年草である。原産地は「アジア大陸中心部の内陸山岳地帯」といわれている。発生は紀元前4000年~2000年ころで日本には約3000年前の縄文晩期に渡来して栽培されたものと推測されている。

普通ソバ、ダッタン種など数種類のものがあるが、日本、中国、アジア諸国、東部インド、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの産地での種類は「普通ソバ」が主である。草丈30~60?で葉は心臓形で夏から秋にかけて、白色またはピンク色の小さな花をつける。種実は三稜形でこの種実から白色の澱粉質のソバ粉をとって食料とする。この時に副産物として発生するのがソバがらである。

ソバがらの組成(財団法人日本食料分析センター分析試験成績より)

●ソバがらの湾曲性

ソバがらの細胞四層の中でも外果皮は細長く網目で、吸湿し易く、細胞の配列が左右対称であり、先端部分には細胞が少ない構造なので吸湿によって特徴のある湾曲ができ、殻の間の通気性が増大をする。これは古いソバがらでもあるが、新しいものほど大きい。

●ソバがらの温度と体積の変化

圧力が一定であっても、温度が上がると体積は増加し、下がると体積は減少する。

ソバがらは含水量が増加すると共に熱伝導度は増加するなど、枕の詰め物としては好適な特性をもっている。

77.枕と頭部皮膚温の変化(熱伝導性)・・・

室温20℃前後の部屋で枕を使った時に、枕と頚部皮膚温および額部皮膚温の変化についての宇山久氏の実験報告によると、ソバがら枕では額部皮膚温は30分ほどの間に1℃ほどが徐々に下がる。その後は大きな変化がなく経過する。項部皮膚温は数分の間に0.4℃ほど上昇した後は大きな変化はなく経過する。頚部皮膚温は額部皮膚温より高い。

陶枕では額の皮膚温はほとんど変化はない。頚部皮膚温は数分の間に1.1℃ほど下降するがその後は大きな変化はない。頚部皮膚温は額の皮膚温より低く経過する。

籐枕では額部・頚部の皮膚温とも初めはやや上昇のあと徐々に下降して安定する。頚部皮膚温は額部皮膚温よりも低く経過する。

水枕では額部皮膚温は数分にして0.3℃ほど下降するがその後の変化はほとんどない。頚部皮膚温は3.3℃ほどと著しく下がるが、40分ほどで安定する。頚部皮膚温は額部皮膚温より低く経過する。

78.「枕を高くする」と安眠はできない・・・

辞典によると「枕を高くする」とは高枕で眠る、安心して眠る、安心するなどとあるが、これは中国での故事「項王今咸陽に入って枕を高く食を安くする」の由来からである。日本でも戦国時代には不意の敵襲に備えて地面に耳をつけたり、更に遠くからの音が聞こえるようにと、えびら(矢を入れる筒)を枕として寝たりした。戦いが終わり敵襲の心配がなくなると、平常のように枕をして眠ることができたので、地面から枕の使用への変化がこのような言葉を表わしたものと思われる。

高すぎる枕は眠りを妨げることが多い。江戸時代の男性には髷があり女性は更に大きい日本髪があって高い枕が普及していた時代でも「寿命三寸楽四寸」(守貞漫稿)とあるように健康で長生きするためには三寸(約九?)の方がよいとしている。九?でも現代では高い枕の部類に入る。眠りのための程よい枕の高さには昔からいろいろな言い伝えがある。握りこぶしの高さ、親指の高さ、小指の高さなどである。また学者の研究では6~8?がよいとの報告もあるし、他の研究者によると最近の日本人の体型の変化から見て更に低い方がよいとの説もある。

頚椎前湾の角度は枕がない時と比べると高い枕になるほど消失するし、胸椎後湾角度は高い枕ほど増大する。更に僧帽筋が伸び、胸鎖乳突筋は収縮するのでリラックスした状態とはならない。頚部は狭い部分に頚椎・気管・筋・動静脈・神経などが集中するところであり、全身への影響も大きいので適正でないと肩や頚のこり、不眠、いびき、頚椎症などさまざまな疾患の原因となる。これらは高すぎる枕に多い。

枕の高さは体型、寝姿、習慣などの個人差と共に、使用中の敷ぶとん、マットレス、ベットなどの弾性の強弱、沈み方の大小に影響されるので正確な高さは一人一人が異なるものである。従って一個の枕ですべての人に満足させることはできない。

筆者が札幌市および近郊在住の成人を対象として、使用中の枕のアンケート調査(男性359名、女性295名)の回答では、5~6?をちょうどよいとしたものは60.8%、3~9?の範囲では70.6%であった。傾向として女性は男性より低く、若年層は高年齢層より低いようである。

79.ホテルでシングルベッドに枕が二つ・・・

ホテルに泊まって、シングルベッドなのに枕が二つの時がある。ホテルがシングルベッドに二人泊めることはないから何か使い道があるのだろうと思いながらベットの中で本を読んだり、テレビを見たりする時に背に当てて使っていた。昔西洋の貴族が人と合ったり書類を見たりするのにベッドの中で背もたれの枕をしたと読んだことがある。

理由はベッドの下に護衛の兵士を睡眠中に潜ませていたからということであった。そのころのの名残りでアクセサリーとして置いてあるのかと思い、むだなことと思いながら寝る時には一個は床上に置いたものである。二つ並べてはじゃまになるし重ねては高すぎるし足元に置いては重く感じて気がかりだからである。

その後あるホテルから寝具について相談があって分かったことだが、宿泊客には高い枕の好きな人、低い枕がよい人、柔らかい枕、固い枕、ソバがら枕などさまざまな人がいる。このようなことへの対策として予め数種類の枕を準備したい、収容人員は300名、客層などからどのような種類とどのくらいの割に準備すべきかということであった。

その時の話で「高い枕を好む人のために二つ置いてあるので不要の時にはクローゼットにでもしまってもらう」との話であった。昭和50年ころのことである。


●毛布

81.毛布のはじまり

「日本書紀」には欽明天皇15年(554年)に百済の聖明王が新羅討伐の援軍を要請した時に貢物として「からにしき」二疋と毛せんの一種の「おりかも」一領を献じたり、同じ時代に下野国から羚羊の毛と絹糸を交織した「けむしろ」が献上されたとある。さらに文武天皇の慶雲元年(704年)に越後から、兎の毛と絹糸とを交織した布を献上されたという古い記録がある。毛織物は鎌倉時代、室町時代には中国、朝鮮から、安土桃山時代にはヨーロッパからと次々と入ってきた。しかしこの時代は数量も少なく貴重品でもっぱら大名の陣羽織、槍印、火事装束、合羽などに利用された。

明治初期に陸軍はフランス式に海軍はイギリス式にと軍隊の洋風化によって毛織物の需要が急速に増大して毛織物の対外支払いが巨大なものとなったことから、官営の羅紗器械所が明治九年(一八七六年)に設立された。これが千住製絨所の前身であり、日本での最初の毛織物工場である。千住製絨所は明治21年(1888年)に陸軍省に移管され、陸軍用の毛織物を製造し、明治26年からは毛布を製造し、模範的な工場として第二次大戦終結まで国営工場として稼働していた。

この千住製絨所の成功に刺激されたここと、国の指導などもあって民間でも羊毛工場が設立されるようになった。後藤恕作氏が明治13年芝白金台に羊毛製糸会社を設立して牛毛や支那羊毛を原料として手織りでじゅうたん、だんつうなどを製造したのが民間の始まりである。その後東京毛布製造会社、東京毛糸紡績株式会社、明治21年には大阪毛糸紡績株式会社など次々と民間の羊毛工業の工場が設立された。しかしいずれも官庁用の製絨が主であって、一般に毛布が普及したのは大正から昭和にかけてである。

 

82.毛布の種類と特性

毛布はふとんよりは軽く、たたんでの容積も小さいので便利な寝具として、ほとんどの家庭で使われている。素材・製法によって製品に特徴があって、季節の寒暖に応じて単独に、あるいはふとんとの組み合わせをして保温性を高めるなど、掛用としてばかりでなく敷用としても使われている。

1.毛布の製法による名称と特徴

織り毛布 昔ながらの製法で力織機で製織されたもので、縦糸に細い糸を、横糸には太い糸を使って織り、両面を起毛して毛布としての厚みを出し、含気率を高めて保湿性をよくしてある最も一般的な毛布である。

タフト毛布 昭和38年(1963年)に英国のBTM社から輸入されたタフティングマシンで製織された毛布で、基布にアクリル繊維を植え込んで両面を起毛してある。

従来の力織機とは違って1時間に100m以上もの生産があって価格は割安といえる。

マイヤー毛布 昭和43年(4968年)にドイツ・カールマイヤー製ラッセル機が輸入されてから作られた毛布で、綴り編地の基礎地の二枚を起毛面が外側になるように重ねて周縁を縫い合わせたものである。片面無地・片面プリント柄で、量感もソフト感もあってファッション性がある。

ニューマイヤー毛布 従来のマイヤー毛布の二枚合わせと異なり一枚で両面を起毛した毛布で、軽くソフト感がある。

2.毛布の原材料による分類

動物性繊維 羊毛、キャメル、カシミヤ、アルパカ、モヘアなどの獣毛類や絹製で、保温性、吸湿性、嵩高性、難燃性などがよく、酸に強くアルカリに弱い。白いものは紫外線で黄変するが、おおむね毛布の必要特性を保持しているといえる。

植物性繊維 綿に代表される毛布で、敷用、夏掛用が多い。獣毛より保温性は少ないが、吸湿性はよい。酸に弱いがアルカリに強い。洗たく強度があるし、漂白も可能である。 

合成繊維 アクリル繊維が多く使用されている。動物繊維より軽くソフト感があり、染色性がよいので色柄が引き立つ。吸湿性が少なく、帯電性もあるが、保温性、耐久性、感触がよく、色柄の発色性もよい。また酸、アルカリや日光にも強い。

3.用途による分類

普通のふとんに使用されるもの、ベッド用、敷用などがあり、何れも、シングル、セミダブル、ダブル、長寸などがある。他に、ベビー用、子供用などとそれぞれ適応した寸法がある。

83.電気毛布

寒い夜など入床前に電気毛布でふとんの中を暖めておくと、入床時の冷たい抵抗感もなく気持ちがよいので便利である。ただし電気毛布は一晩中使用せずに入床前だけの使用に留めたい。なぜならもともと体温と寝具の機能によって快適な寝床気候(寝床気候の項参照)が自然に調節されるべきところを、電気毛布を使用することによって、体調とは関係ない温熱による発汗作用で体液が奪われ、これらの水分は寝具の吸湿、排湿作用によって寝具外に排出されるが、多量な発汗では寝具の吸湿・排湿機能が追いつかないと湿度がこもり高温となって寝床内が温度、湿度ともに不適となる。

また皮膚面の過度の乾燥はかゆみの原因となるし、健康的とはいわれない。

病人など代謝機能の低下して保温が難しいとか寝具の使用が出来ないなど、特別な条件の時には入床後にスィッチ切るとか低温にするなど、調節しながら使用する配慮が必要である。


●寝装品

84.敷 布

敷布はいつ頃から使われていたのかは不明であるが、数量は少ないが、明治の初期には輸入の綿白布が敷ぶとんの覆として使用されている。また明治36年には博覧会で小川平助氏の工場の製品が三等賞を受けているが、この工場は明治23年に創設されている。明治30年ころには衛生上から地方警察令で旅館の寝具には敷布の使用が決められ、一般の衛生思想の向上もあって敷布は急速に普及された。

敷布は就寝中の汗をよく吸いとり、敷ぶとんの汚れを防ぐ作用をしていて、洗たく回数も多くなるので、清潔感とともに吸湿性、敷ぶとんへの防汚性、洗たく強度がよいなどの機能が必要である。その点から素材としては綿が最適である。夏用の敷布には、べとつかず、さらっとした感触がよいので、凹凸のある桝目織りや吸湿性の少ない合繊を混紡したり、麻やい草のように体にべとつかない素材のものなどが使われている。冬用にはやや厚目の綿布を起毛した保温効果のあるものなどが使われている。体動による摩擦の多い中央部を厚く織ったり、目を楽しませる色柄をつけたり、周囲にゴムをつけて敷ぶとんを包み込むものなど、さまざまな工夫がされている。

 

85.パジャマ

現在「パジャマ」と呼ばれている上衣とズボンを組み合わせた形の寝巻きは、九〇〇年代のイスラム時代にはあったとされているが、ヨーロッパでは寝巻きが使用されたのは1600年代になってからであり、それまでのヨーロッパでは、一部の上流階級でも裸に布を巻き、その上に毛皮をかけて寝る形式であり、多くは昼間の衣類のまま、ごろ寝をするのが普通であった。

19世紀にはワンピース形の寝巻きもできてきたが、1900年代後半になって上衣とズボンに分かれたパジャマが使用されるようになった。

パジャマの語源はペルシャ語、ウルドウ語(パキスタン公用語でヒンズー語・ペルシャ語・トルコ語が混じってできた言語)の「パエジャマハ」(脚を包む布)からといわれている。この「パエジャマハ」はゆったりとしたズボンで、室内着として使われていた。インド駐留の英仏人がこれを真似、改良をして作り、これがヨーロッパに普及し、さらに上衣と組み合わされて現代の「パジャマ」となったといわれている。

パジャマは直接体を包むので選択に当たっては素材は吸湿性・保湿性がよく皮膚感覚のよいもの。洗濯強度のよいもの。その点綿は最高といえる。寸法は身体を束縛しないゆったりとしたものであること、色柄デザインは個人の好みもあるが、何れも寝室の雰囲気に合った落ち着いた清潔感のあるものがよい。

昭和の初めごろから市販されていたが、それまでの寝巻きに代わって大きく普及し始めたのは昭和40年ころからである。最近では部屋着兼用ということでファッション性の高いものがあるが、部屋着兼用では衛生的にも如何かと思われる。床面からのダニ防止の面からも兼用でない方がよい。


●寝室

86.寝室の設計

寝室は眠るために使用する部屋であるが、家屋の立地、構造、昼間の多目的な使用、使用する人、好み、家族構成などさまざまな環境条件の違いがあるので求められる寝室としての条件も、幅が広く内容も異なってくる。同じ家であっても夫婦二人の時代、子育ての時代、子どもが成長してから、二世帯時代など時の経過とともに求められる条件にも変化があるし、同じ条件であっても軽重の差が出来る。しかし、共通することはその時々に応じながら、いかにして快適な睡眠環境を作り出すかである。要約すると

○家庭内においてもプライバシーが確保できる個室であること。

○屋外や屋内での騒音が寝室内に入らないこと。

○寝室の内装は音を吸収する構造であり、材質であること。

○日照の調節のためにカーテン、障子、ふすま、雨戸、ブラインドなどの設備のあること。

○温度、湿度、換気、などの寝室内気候の調節ができること。

○広さが適当であること。

○押し入れは寝具類の収納機能を十分に果たせること。

○夜間照明は全体の明暗をする全般照明と、机や枕元などを照らす部分照明とがあれば便利である。

○色彩の調和、便利性、掃除がし易いなど。

○関連する浴室、洗面所、便所などについても便利な位置であることなどがある。その点ホテルの部屋はよく配置されている。

 

87.寝室気候

室内温度が一定限度以上になると、体熱放散のために呼吸数の増加、体表面の血管拡張などがおこり発汗をする。さらに進むと体がだるくなり、食欲の減退などの誘因となる。また、逆に温度が一定限度以下になると、体温維持のために体表面の血管は縮小し、体は緊張状態となる。室内の適温は20~25℃ほどが一般的である。27度以上になったり、15度以下になると前述のような違和感を感ずる人が多くなる。

室内湿度は温度とともに快、不快を決定する大きな要因である。同じ高温時でも湿度が低いとしのぎ易いと感ずるし、湿度が高いとむし暑く感ずる。一般に快適と感ずる湿度は相対湿度が45~65%といわれている。

不快指数は次式で求められる(ただしこの算式では気流については考慮されていない)

不快指数=0.72(乾球湿度+湿球湿度)+40.6 

不快指数75ではほぼ半数の人が、100ではほとんどが不快となる。

気 流空気の流れは温度感覚に影響する。同じ室温でも空気の流れがあると体熱の放散ができてしのぎよいと感ずるし、空気の流れがないと体熱の放散が妨げられるので、うっとうしいと感ずる。

換 気は室内空気の汚染の防止とともに室内気候の調節となる。日常の適切な空気の入れ換えは必要である。外気の汚染がない限り、多くは一定時間窓をあけ外気を入れることで目的は達せられる。

寝室の空気

寝室は閉め切った状態で使用されることが多い。結果として長時間同じ空気を吸うこととなるので、寝室内の空気を汚さないこと、換気に留意することが大切である。

二酸化炭素(CO2・炭酸ガス)

睡眠時の二酸化炭素の排出は男女平均で一時間当たり8.4・と言われている。増加が僅かなので人体に直接影響するほどのことではないが、二酸化炭素の濃度の上昇は寝室内の温度、湿度、臭気などの条件を悪化させるので、二酸化炭素濃度は0.1%以下にすることである。

建物の気密性と一人当りの必要な寝室の広さ(花岡利昌 住居衛生学より)

気密性 自然換気回数 寝室の広さ(部屋の高さ二・四・の時)

木造・木製サッシ 3 約3畳

木造・アルミサッシ 0.7 約4.5畳

コンクリート・アルミサッシ 0.25 約12畳

自然換気が少ないほど気密性は高くなる。

室内で使用するストーブの種類や喫煙でも一酸化炭素(CO)や二酸化炭素は増加する。

揮発性化学物質

寝室に使われている建材、家具、壁紙、布などの接着剤や塗料類、畳、敷物、カーテン、インテリヤ、繊維製品などの防菌、防黴、防虫、防炎などの加工剤類、器具、化粧品に至るまで発生源となるものは多い。また発生される化学物質の種類も多い。清浄なものでも移染によって新たな発生源となるなどさまざまである。

各々から発生する量は僅かでも、全体として、長時間気密性の強い寝室環境内にあるので影響は大きい。

ホルムアルデヒド

日常接する揮発性化学物質の中で単独では最も高い濃度を示すものである。

刺激臭の強い気体で目がチカチカしたり、のどがいがらくなったり、皮膚炎を起こしたりする。

建材、家具、床板などの合板や壁紙などの接着剤に使われている。室内の繊維製品に吸着したりするので影響が多い。新築された室では1~2年にわたって発生されるとの報告もある。

揮発性有機化合物

数百種もの化学物質がある。種類、量、複合作用などによってさまざまな影響がある。

ハウスダスト

室内にあるダニ(生体、排泄物、死体など)カビ、センイ屑、チリ、土、花粉などの付着物や空気中に浮遊する物質類の総称で、外出着や外気によって入ったり、湿気の多い押入れなどでダニやカビが増殖したり、ふとんの上げ下げや着替えなどによる飛散など、気密性の強い寝室であるだけに影響は他の開放された部屋よりは大きい。

寝室内空気の清浄対策

●換気 外気が汚染されていない限り、換気は最も容易で効果的である。窓、戸の開放、換気孔、換気扇の使用など、新築建物の時には特に励行することが必要である。

●除湿 寝具・衣類の日光乾燥の励行押入など湿気の多い所はダニ、カビの増殖する所なので換気・除湿は特に注意をしたい。

●その他 化学物質や汚染を発生するような物を寝室内に持ちこまない。防虫剤の使用などは特に要注意。暖房器具は外気を吸排出する密閉型や電熱型がよい。空気清浄機の使用、掃除の励行、禁煙、飲食をしないことなどの配慮が必要である。

88.寝室、寝具の色彩

色は可視光線のスペクトル成分によっておこる感覚で、色は灯がないとみることはできない。寝る時には暗くするので色は影響がないように思われるが、就寝前には寝室、寝具のもつ雰囲気も影響するので適応した色を選ぶことは大切である。色は感覚的なもので物理学だけでは片付けられない面があるので、心理学、生理学的面からも見なければならないが、個人差もあって必ずしもすべてが一定とは限らないし、明度、彩度も関係するが一応の共通性があることは認められている。

○暖色系の赤・橙・黄などは興奮感を与えるので、交感神経が働いて血圧を上げ脈拍・呼吸数を増加させる。

○寒色系の青・緑は鎮静感を与えて心を落ち着かせるので、副交感神経が働いて血圧を下げ、脈拍や呼吸数を減少させる。

暖色系・寒色系とも彩度が低くなると興奮感・鎮静感とも少なくなる。

○濃青、寝室の天井にあると夜空を連想させるので、鎮静効果がある。

○紫色、女性ホルモンを増加させる。

○ベージュ、人肌と同色系なので安心感がある。

などがあげられる。寝室内のカ-ペット、壁、天井、カ-テンなどや、寝具類に利用して有効である。

89.室内温湿度と睡眠の充実度

夏期の睡眠環境を実験室内に再現して実験した今井氏他の研究報告がある。

充足度1度・・・眠気はなく入床しても寝付けない場合

充足度2度・・・眠気が強く眠り続けたい場合

充足度3度・・・よく眠れたと思われるが、なお充実感が少ない

充足度4度・・・充実感のある眠り

充足度5度・・・快眠

起床時の睡眠充実度は温度25℃・湿度75%、28℃・50%がよい。28℃でも湿度が50%ならば充実度はよくなる。

室温28℃以上になると評価は低下する。30℃になると充実度はさらに低下する。

90.音と睡眠

私たちはさまざまな音の中で日常生活を送っている。同じ音でも日中には少しも気にならなかった時計や電気冷蔵庫のなどの音が夜には同じ音でありながら耳障りなことがある。これは日中には他のレベルの高いさまざまな音(暗騒音)があって、これに隠されて感じないでいるからである。夜になるとさまざまな暗騒音のレベルが低くなったり、なくなったりするので、日中感じなかった音も感じるようになるからである。

騒音と睡眠についての長田泰公・公衆衛生院研究報告がある。

○音と睡眠の深さ

睡眠深度0~3の4段階に区分

40ホン以上になると睡眠に影響がでる。

白色雑音(ホワイトノイズ)=単調な雑音

音の強さを表す単位としてデシベルdBがあるが1000サイクル以外の周波数では同じ強さの音でも人間の耳には周波数の高い音の方が周波数の低い音よりも強く聞こえる。たとえば4000サイクルで約75dBの音圧と50サイクルで約85dBの音はいずれも1000サイクル80dBの音とほぼ同じに聞こえる。dBを人間の耳の特性で補正したのがdB(A)(ホン)である。

○音と入眠時間

騒音の大小と入眠までに要した時間の測定についての報告(大島)によると、30ホンを1とすると40ホンでは1.4倍、50ホンでは1.8倍であるという。

○音と目ざめ

睡眠状態から目ざめまでの時間では30ホンを1とすると、40ホンでは0.8倍、50ホンでは0.55倍となる。

91.寝室の防音

寝室が騒々しくては安眠出来ない。寝室の静かな環境を守るためには壁を厚くしたり、窓を二重にしたりして、さまざまな防音対策が必要になってくる。寝室の設計や改良に当たって使用すべき材料について防音効果の程度を知っておくことは便利である。

音が物に当たってこれを通過したときにその物によって減少された音量を遮音度あるいは透過損失と呼び、数値の単位をデシベル(dB)で表している。たとえば寝室の外側に66ホンの音が当たっても寝室内が40ホンであれば、この窓の遮音度は20dBということである。

92.明るさと睡眠

入床時の部屋の明るさの程度は気になることであるが、これに関する研究は少ない。岡田・梁瀬氏の報告(1981年)があるので引用すると、暗黒では周囲の状況が分からないので不安感が強く、睡眠深度は照度50ルクスの時よりも低い。

一晩の睡眠経過でみると照度30ルクス以下の時では前半期に睡眠深度がよく良質の睡眠深度が得られる。50ルクス以上になると、睡眠の一サイクル目の睡眠深度の深い時間帯が短くなり、2~3サイクル目に睡眠深度の深い状態が残る。つまり、眠り始めが浅く、朝方に深くなる傾向が見られるので、よい睡眠とはいえない。

また睡眠中の遮光動作では、0.3ルクスでは遮光動作はほとんどなく、30ルクスまではふとんを被るなど寝具による遮光が多い。50ルクス以上になると腕や手を使って遮光するようになり、120ルクス以上では寝具も体も使って顔を覆う動作をとるようになる。

大脳の働きを示すフッリカー値では、50ルクス以上の時は起床直後は値も高いが、起床の40~50分経過後では大脳皮質の機能回復度は低くなっている。これは眠気の回復度が遅いことであり、午前中の活動に影響が生ずる。

総合評価として入床時の照度0.3ルクスの時が満足度が高い。


●管理

93.押し入れの湿気に注意

寝室でベッドを使っている以外では、ふとんは押し入れに収納されている。戸建住宅の場合、押し入れは北側で屋外の壁に接している場合が多いので、ここは他の部屋と比べて低温・多湿になり易い。またコンクリートやブロック構造の建物の場合には、冬期には結露し易いこともあって押し入れは多湿になり易い場所である。夏期には高温・多湿になり湿度80%を越えることも珍しくない。

押し入れの中が多湿であれば折角乾燥したふとんを収納しても吸湿してしまうし、ふとんの湿度が多ければ押し入れも多湿となる。ふとんを乾燥した最適状態に置くためには、ふとん・押し入れともそれなりの対応が必要である。押し入れの防湿対策としては最も手軽でかつ広く使われているのはすのこである。押し入れ床面や壁面をすのこで囲む形にすると、空間ができ通気性がよくなるので除湿し易くなる。

季節ごとに使用されるふとんで長期に収納して置くときは、ふとん袋に入れ乾燥剤を加えて保管した方がよい。一か月に一回ぐらいは取り出して天日乾燥するか、乾燥機を使用するとよい。

押し入れに収納するときは下からマットレス、敷ぶとん、掛ぶとん、毛布、シーツ、寝衣、枕の順がよい。重いふとんが上にあると、掛ふとんのかさ高性に影響があるので重ねるのは重い順にすることである。マットレスの場合は弾性が強いので一番下にあっても安心である。

 

94.ダニと対策

ダニは家の外にも内にもたくさんいるし種類も多い。寝具につくダニの代表的なものはヒョウダニ(チリダニ科ヤケヒョウダニ・コナヨウダニなど)で80%以上を占め、次いでナミホコリダニ(ホコリダニ科)その他のダニ類がすこしずつ見られる。

ヒョウダニは人体からでたフケやアカを、ホコリダニはふとんについたカビ類を食べている。数は少ないが、ツメダニもいてヒョウダニを捕食している。

ダニの好適条件は温度20~30℃、湿度60~80%、食べ物があることである。好適条件下では、チリダニの卵は25日ほどで成虫になるので繁殖も早い。チリダニの虫体・糞ともアレルゲンとなる。特に糞は乾燥すると10分の1、20分の1ほどになって1~2マイクロ?になるので呼吸器に入り易くなるので影響は大きい。吸い込んでから数10分~数時間でアレルギーを起し、発症すると治り難いことがある。ツメダニに刺傷されると5~8時間後に皮疹ができ、かゆみが10時間ほども続くことがある。一過性なので多くは経過時間後は自然に治る。

対策はダニの生育し易い条件を除くことである。つまり、体を清潔にしてシーツ、カバー、寝巻きなどの洗濯をよくしてダニの食べ物となるフケ、アカなどをつけないこと、押し入れもよく乾燥してカビなどの発生がないこと、ふとんの乾燥を励行してダニの生息し難い温度、湿度にすることである。起床した時のふとんの中は温度28~30℃、湿度70~80%ほどになっていることが多いので、1、2時間ほど室内に置いて湿度を減らしてから押し入れに収納することは、ふとんと押し入れの中の湿度を高めない。ダニ類は50℃20分ほどで死滅するので、乾燥加熱は効果的である。

日光乾燥は最も手近で効果もよい。直射日光はダニの死滅を早める。乾燥後軽くふとんをたたくとダニや糞を飛散させるし、ホーキや掃除機を使うとさらによい。夏日にふとんの上に黒い布をかけると表面温度が5~8℃ほど高くなるし、水分も3~5%ほどまで下げられるのでふとん表面にあるダニのほとんどが退治できる。しかし、ダニは中わたに多いので、長時間毎日続けることである。

ふとん乾燥機を使用する場合は、敷ぶとんと掛ぶとんの間ばかりでなく、敷ぶとんとタタミ、床面との間にも作用させるとよい。一般に敷ぶとんの方が掛ふとんよりも湿度もダニも多いからである。

ふとんばかりでなく、室内、押し入れ、床面の掃除も励行しなければダニ退治の効果は上がらない。

95.ふとんの日光乾燥

睡眠中に体から発生した水分はふとんに吸収されてから透湿によって空中に放散されるが、なお、ふとんの中に水分は残っている。できるだけ乾燥した方がよいが、ふとんの種類によってその方法にも多少の差がある。

○乾燥要領

時間帯は午前10時~午後3時ごろが空気も乾燥しているのでよい。降雨の翌日は晴天であっても空気中の湿度が高いので乾燥には適当でない。

色・柄などの日光による変退色や側布の劣化を防ぐために、薄い布やシーツ、カバーなどをかけるとよい。シーツやカバー程度では放湿量に大差はない。黒い布をかけると日光からの熱の吸収がよくなるので乾燥効果がよくなる。

乾燥後はふとんの表面にあるほこりをホーキではくか、掃除器でとる程度でよい。叩いても布地を損ねるだけで、中わたがほぐれることの期待はできない。

平常使うことのない客用ふとんや夏・冬の季節用のふとん類は、押し入れでは放湿の機会がないので2か月に一度くらいは乾燥したほうがよい。乾燥後必要以上に熱くなった時は熱がとれてから折りたたんで収納する。

○綿わたふとん

綿わたふとんには厚いものが多い。特に敷ぶとんは厚い上に就寝中に吸湿された水分が掛ぶとんよりも外部に放散されることが遅いので、排湿は十分でない。日光乾燥1時間目までは急速に放散され、2時間ほどで平衡となるが、厚い敷ぶとんを中心部まで放湿させるには3時間ほどが必要である。

○羊毛わたふとん

綿わたふとんよりは通気性もよく薄いものが多いので1~2時間ほどでよい。

○羽毛ふとん

通気性がよく、透湿性があるので1時間ほどでよい。羽毛の劣化を防止するためには、薄い布やカバー、シーツなどをかけるとよい。

○合成繊維わたふとん

通気性・透湿性がよく、乾燥は早いので、1時間以内で目的は達せられる。

○絹わたふとん

薄手のふとんが多いので、羊毛わたふとんよりも乾燥は早い。1~2時間程度でよい。

96.ふとんの乾燥効果

ふとんを天日に当て、乾燥したふかふかのふとんに寝ることはこの上なく快いものである。乾燥には次のような効果があるので快適な眠りをとることができる。

○ふとんに含まれている水分を発散させる

湿気の残ったふとんは繊維本体や繊維と繊維の間の空隙が少なく、密度が大きいので通気性が悪く透湿作用も低下している。湿度の高い寝床気候は安眠の妨げにとなるがこれを防ぐことができる。

○保温性がよくなる

繊維および繊維間の空気層が増加するので、ふとんの中の空気容量である含気率が高まる。空気は繊維よりも熱伝導率が低いので、保温性はよくなる。

○弾性の回復

含気率の回復は繊維のつぶれや巻縮を回復するので、ふとんわたの圧縮率および回復率がよくなり、ふかふかした快い感触が得られる。

○殺菌防黴などの作用がある

日光と乾燥により、細菌、カビ、ダニなどの殺菌効果と減少および防止ができる。

97.ふとん乾燥機

雨の時や雪国の冬期など屋外で日光乾燥が出来ない時、日中留守でふとん干しのできない時などには便利で利用範囲も広い。

営業用としてのふとん乾燥機は一時に多量のふとんを処理することから、規模の大小によってさまざまの構造のものがある。また自動車による移動式などもある。家庭用として一般に使用されている機種の構造は、敷ぶとんと掛ぶとんの間に温風を送り込む布袋を挟み、これに発熱機からの温風を送りながら袋からふとんの中に温風を放散させて、ふとんを加熱・除湿させる構造のものが多い。ふとんわたの種類・量目・構造さらには寝室内の温度、湿度などによって差があるが、小型のものでは1~3時間ほどの乾燥時間がかかる。加温されたふとんは、冷風装置によって冷されるが、自然に冷すには20~30分ほどの時間がいる。また、ふとんと同時に毛布・寝衣類もできるし、乾燥による殺菌、除臭の効果もある。

冬期には就寝前に10~20分ほど使用して寝床を温めたり、押し入れ内の除湿作業などにも利用される。暖房兼用のものなど種類も多いので、各々の家での使用目的に応じたものを選択することである。

98.ふとんの打ち直しと丸洗い

ふとんは一定の期間使用すると就寝中の汗や体動による加圧と、もみ現象などで中わたが固くなる。これは掛ぶとんよりは敷ぶとんの方が影響が大きい。敷ぶとんに吸収された汗の多くは中わたのもつ吸湿、通気、排出作用と日常の日光や乾燥器などによる手入れで排除できるが、過剰な水分や汗を構成する水分以外の諸成分(発汗の項参照)は残留するので、これらの成分と就寝中の体圧や体動で、中わたがもまれてフェルト化(特に表面部分)して固くなると、中わたの含気率が低下して通気性が悪くなり、吸湿、排湿作用、保温性、弾性などが低下する。固くなった中わたは乾燥しただけでは回復が困難となるので、機械的に解きほぐすことが必要となる。この作業が中わたの打ち直しである。

打ち直しの頻度については地方の気候や寝室環境、中わたの種類・品種、使用している人の年齢・体型・性別、また使用方法、収納方法、日常の手入れ状況などさまざまな条件で差があって一律に何年ごとにという具合に決められないが、中わたが固くなって弾性が少なくなったら打ち直しをした方がよい。

綿わたの打ち直しでは、敷ぶとんでは2~3年ごとに掛ぶとんでは4~5年ごとが多い。しかし中わたの繊維が変色して弾性を失っていたり、打ち直してもすぐに固くなるようでは、すでにふとんわたとしての寿命を失っているので、ふとんとしての機能回復はできない。打ち直しの際には極力短繊維分や夾雑物を除去して歩減りを気にしないことであり、不足した分は同等かそれ以上の良質のわたを補足すると、長く持たせることができる。綿ふとんの丸洗いは綿繊維組成の脂肪やロウ分を失うので、弾性が低くなり固化が早まる。厚手の綿ふとんは中わたの打ち直しの方が効果的である。

羊毛わたは繊維が長くクリンプがあることと、吸湿性がよいので中わたがフェルト化し易い。これは敷ぶとんの場合特に早いので、日常の乾燥手入れが大切である。フェルト化は表面だけの場合が多いことと、羊毛の持つ弾性で綿わたよりは固くならない。丸洗いは羊毛繊維組成中の脂肪やロウ分を失うので弾性はやや低下するが、薄手のふとんでは汗成分などは除去できる。

合繊わたは掛ぶとんが多いことと繊維の吸湿性が少ないので、他の動物性繊維や植物性繊維よりは打ち直し回数は少なくて済むし、丸洗いで失う繊維成分がないので、そのまま丸洗いでよい。

羽毛ふとんの場合は打ち直しとは呼ばないが、中材の羽毛を取り出して洗浄・乾燥・選別をして損傷した羽毛や不純物を除き、不足分は同等もしくはそれ以上の品質の羽毛を補充して仕上げるのが従来からの方法である。羽毛の選別・補充を必要としない場合は丸洗いでもよい。

99.寝具の汚染

よごれは季節、生活環境、使用法、繊維の種類、品質、汚染防止加工の有無などさまざまな条件の違いもあって、汚染の程度も種類も多い。寝具類には身体からの垢、汗、しみ、その他のさまざまな汚れ物質の付着があり、更にこれらの汚染物質を栄養源として繁殖しているダニ、細菌、真菌、カビなどがある。身体や快適な寝床気候はこれら微生物(多くは非病原性)にとっては格好のよい生息環境となっている。特別な周囲の環境汚染がない限り、身体に近いほど汚染度合は大きい。汚染の程度が進むとこれらの微生物が汚れを分解して悪臭を出すようになる。夏の靴下などがよい例である。直接には無害であっても、衛生的とはいわれない。直接身につける寝巻き、パジャマ、ネグリジェなどや、シーツ、カバー類など身近にあって使用するものほど、汚れ度合いは多い。繊維素材としては毛、絹、綿などのように吸湿性の高い繊維ほど汚れの吸着が多く、合成繊維類は少ない。

繊維組織ではメリヤス、タオル、ネルなどのように厚地で、編み、織り目の粗いほど汚れが多く、ブロード地などのように薄地の組織は少ない。合成のニット製品はほぼこれらの中間である。また汚れの多いほど、微生物の着床も多くなる。

多くは非病原性であるが、稀には病原性のものもあるので清潔第一が肝要である。

100.寝衣類の洗濯では細菌はどれだけ除かれるか

寝具をいつも清潔にして使用することは健康と快眠のために大切なことである。特に寝巻き、パジャマなどの寝衣類やシーツ、カバーなど身近にあるものほど汚れが多い。洗濯はこれらの汚れと、汚れを栄養としている微生物類を除去し、殺菌することである。洗剤やセッケンには殺菌作用は少ないが、洗濯による除菌効果が大きく、更にアイロン(170~180℃)もあって殺菌がなされる。洗剤でも殺菌力の強い陽イオン活性剤や漂白剤酸溶等は直接殺菌作用があるし、乾燥は細菌の阻止力をもっている。特に日光による乾燥では紫外線による強力な殺菌作用がある。多くの細菌は紫外線下では数秒~数分で死滅する。カビ類は一般に強く、10分~20分かかるものもある。またある種の黒カビでは40分も死なないものもある。

 

参考文献

睡 眠

著 書 名 出 版 社 出版年度
睡眠 化学同人 1988
睡眠の科学 朝倉書店 1983
眠りとは何か 講談社 1984
ねむりの生理等 中外医学社 1965
睡眠と人間 三笠書房 1985

 

家政学研究26家政学研究26家政学研究26寝 具

著 書 名 著 者 出 版 社

出 版 年 度

枕の博物誌 白崎 繁仁 北海道新聞 1995年
枕の人間工学 白崎 繁仁

白崎繊維工業株式会社

1996年
CORE   商品科学研究所  
人間工学からの発想 小原 二郎 講談社 1982年

寝具と衛生

中嶋 朝子 関西図書出版 昭和51年

夏季の睡眠環境の寝床気候・

睡眠経過に及ぼす影響

今井 京子他 家政学研究26 1979年
寝床内暖房時の皮膚温について 今井 京子 家政学研究26 1980年

季節による寝床気候と

睡眠経過との関係について

宮沢 モリエ 家政学研究21 1974年

羽毛油の研究(中国、ベトナム、

タイ、台湾、ヨーロッパ産羽毛

油の分布)

白崎 繁仁 日本獣医学会 1982年
水鳥と陸鳥の羽毛脂質の脂肪酸の比較 白崎 繁仁 家畜生化学研究会報16号 1984年
羽毛油の研究      

第一報 家畜の腸間膜、皮膚、

フェザー、ダウンの脂肪酸分析

白崎 繁仁ほか 獣医畜産新報No.784 1986年

第二報 家鴨の生産地と羽毛油の

組成の差異

白崎 繁仁ほか 獣医畜産新報No.794 1987年
ポリプロピレン繊維のラット発育血液成分に与える影響について 白崎 繁仁ほか 麻布大学研究報告No.30 1957年
床敷繊維素材(羊毛・ポリエステル・綿)のラット発育、血液性状に与える影響(一)(二)(三) 白崎 繁仁ほか 麻布大学獣医学部研究報告 (一)1983(二)1983(三)1985
図説 日本人の生活時間 日本放送協会編 日本放送出版協会 1982年
生活時間の構造分析 経済企画庁編 大蔵省印刷局 1978年
生活リズムの文化史 加藤 秀俊 講談社 1985年

 

白崎 繁仁
画・渡邊 雄一郎氏

著者紹介

白崎 繁仁(しらさき しげひと)

1921年 北海道に生まれる

1938年 北海道庁立小樽中学校(現北海道小樽潮陵高校)卒業

1941年 麻布獣医専門学校(現麻布大学獣医学部)卒業

1942年 北海道農業試験場勤務

1947年 白崎繊維工業株式会社代表取締役

1962年 麻布獣医科大学研究生(生理学)

 

著 書

有毒植物   北海道農業試験場 1944年
枕の博物誌 北海道新聞社 1995年
枕の人間工学 白崎研究所 1996年

 

 

報 文

血清蛋白に関する研究   麻布大学獣医学部研究報告 1965年

 

                                        ほか多数

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